【レビュー】好きなものを好きな理由を説明できますか?『ハマりたがる脳』

「私たちは好きなものをなぜ好きなのか」

色の中では青が好きでも、青い車は好きではないのはなぜか。

昔は好きだった服を、今ではまったく着ていないのはなぜか。

好きな数字を聞かれて答えたとき、その理由を説明するのが難しいのはなぜか。

これらの問いについて、脳科学、哲学、心理学、さまざまな切り口からアプローチしたのが本書です。

著者は、デザイン、設計、テクノロジーなどに関する記事を多く書いているニューヨークのジャーナリスト、トム・ヴァンダービルトです。

ハマりたがる脳 「好き」の科学 (ハヤカワ文庫NF)

ハマりたがる脳 「好き」の科学 (ハヤカワ文庫NF)

トム ヴァンダービルト
1,191円(10/21 01:47時点)
発売日: 2020/06/04
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目次

食べ物の好みについて

初めていったレストランで何を基準にメニューを選ぶのか。ある経済学者はこう言いました。

選ぶものは好みで決まり、好みは過去に選んだもので決まる

つまり、私たちは過去に食べたものの記憶を用いて、好きなものを決め、食べたいものを決めているのです。

では、メニューの中から自分の好きなものを選ぶのと、初めてのものを注文するのとでは、どちらが満足感が大きいでしょうか。

心理学者のポール・ロジンは、食事前と食事中の満足度は好物を注文した時の方が大きい、それは、食べたことがあって、慣れていて、どんなものかわかっているから。しかし、食事後も記憶に残るような満足感は、初めての料理を注文した時の方が大きいだろう。と言います。

好みとは、つまり期待と記憶のことだと著者は言っています。過去の記憶と、未来への期待とで好みは作られるのです。

Netflixのおすすめは本当に私の好きなものか?

著者はNetflixにレコメンド機能についての取材をしています。

Netflixではこれまで、視聴者が見た映画について星評価をしたその結果からその人の映画の好みを予測していました。

しかし現在は、視聴者がどんな行動をしたか(検索したもの、途中で見るのをやめたもの、次に見たもの、2度見たもの)のデータを取ることで、その人の好みを予測しているそうです。

つまり、「視聴者が好きだと言ったもの」から「視聴者が実際に見たもの」に注目の先を変えているということです。

一般人とプロの批評家との違い

私のブログもそうですが、今の時代はネット上で誰でも批評ができます。では、ネットの「口コミ」とプロの批評との違いはなんでしょうか。

著者は、「批評家はある作品のどこを好むべきか(あるいは好むべきでないか)を語り、素人は自分がその作品を好んだ理由を語る」と言っています。

なぜか批評家は自分の好みを「私たち」に押し付けようとしていると批判されることが多いのですが、実際そうしているのは「私たち」の方だと。

なるほど・・・確かにそうかもしれない。

プレイリストはあなた自身を表す

人と一緒に観に行くことも多い映画と違って、音楽は基本的に一人で聴くものです。そのため、音楽の好みはきわめて個人的なものと言えます。

曲を好きになる最も基本的な要素は、以前に聞いたことがあるかどうかである。食べものとと同じで、接触が鍵をにぎる。耳にすればするほど好きになるのだ。

第3章 好みは予想できるのか

また、音楽に関しての実験で、他人がダウンロードしたものがわかると、被験者はそれと同じ曲を選ぶ傾向があるそうです。その結果「人気のある」曲はさらに人気が高まり、人気のない曲はさらに人気がなくなりました。

インターネットで他の人が何をよく聞いているががわかり、その曲をすぐに聞くことができる現在、人気が一気に上がる可能性があるということです。Twitterでの「バズる」という現象もこの心理が働いているのかなと思いました。

芸術の好み

アート作品についても、好みがあります。美術館に行って、この絵は好き、この絵は好きじゃない、というのはどのように感じるのでしょうか。

ノースイースタン大学感情科学学際研究所のバレットは、「何かについてどう感じるかは、その刺激を知覚する前から、あらかじめ脳に準備されている」と言います。過去の記憶から作った予測を脳は準備しているということです。

また、有名な芸術家の作品を、美術館ではなく道端に落書きのように描いた場合、ほとんどの人がそれを芸術と認識できず、その前を通り過ぎたという実験も紹介されています。

道端の落書きと、美術館に飾られた絵画という状況の違いによって、私たちの反応も変わってくるということです。

私たちが美術館に足を運ぶ理由はそこにある。芸術とみなされているものをただ見るのではなく、本当の意味で見るためにその場所へ行くのだ。人類学者のメアリー・ダグラスがいうように、儀式はある経験を日常から切り離すための一種の枠組みである。美術館もそれと同じで、絵画の額縁のようにその内部にあるものに注意を向けさせ、境界を設けることによって、どこまでが芸術家を明示している。

第4章 なぜこれが好きだとわかるのか

また、好きという気持ちは、それがなぜ好きなのかを考える前にやってきます。批評家はそれを言葉にして語ることができる人たちのことなのです。

芸術を芸術たらしめるものはなんだろうか。この問いに対して、アートワールドが芸術だといえば、それは芸術なのだというダントーの答えは有名だ。

第4章 なぜこれが好きだとわかるのか

ボストン近郊にバッドアート美術館(Museum of Bad Art: MOBA)という美術館があるそうです。ここには、「ダメすぎて目が離せない」作品が集められているそうです。この名前はもちろんニューヨーク現代美術館(MoMA)をもじっています。

MOBAのキューレーターが求めているのは、「ばかばかしさを意識的にねらっている」作品ではなく、「芸術的表現を試みながら、技巧か題材のどちらかで失敗した」作品です。そのような作品は、失敗しているからこそ、見る者の目や想像力を引きつける何かが生まれていると言います。

芸術作品をどう楽しめば良いか。以前レビューした、『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』という本に出てくる作品がいくつか本書にも取り上げられていました。

芸術作品そのものと向き合う、作品の背景を知った上で向き合う、など、現代アート作品も多く取り上げて、その楽しい見方を教えてくれる楽しい本でした。

なぜ好みは変わるのか

好きなものは時代や年齢によって変化します。なぜ前は好きだったものが今はもう好きではないのか。

一つは新奇性です。人は新しいものに目を奪われる傾向があります。

もう一つは流行です。人は模倣する生き物です。それは人が進化してきた過程において、1人で試行錯誤するよりも他人を模倣した方がコストも時間も効率が良いからです。

しかし、あまりにみんな同じファッションをしていたら、違う格好をしたくなるのも人間です。人間は集団に属したいと思う一方で、個性ある人間でありたいとも思うもの。著者はこの状況を「差異化を求める同調者」と言い表しています。

まとめ

私はこのブログで、自分の好きな本を紹介しています。取り上げた本がなぜ好きなのか。できるだけそれを言葉で説明しようしても、どうも難しい。でも本書を読んで、それも仕方ないことなのかもしれない、と思いました。

本書を読んでも、好きという気持ちはどのようにやってくるのか、好みが状況や時間経過で変化するのはなぜなのか、結局よくわかりませんでした。。。ただ、それくらい奥が深いものだということはわかりました。

誰かの好みを説明したり理解したりしようとしても、あまりにも独特で、腹立たしいほどとらえどころがない。自分自身の好みでさえそうだ。それでもあるものを好きになるまでの道すじならば、食料品だろうと美術館だろうと、どんなところにいてもはたらく心理的、社会的な力をふり返ってみることで理解できるだろう。何が好きかよりも、なぜ好きかを考えるほうがおもしろい。

おわりに テイスティングノート

私も諦めずにできるだけ人に伝わるようこれからも言語化していきたいと思います。

人を説得したいとき、認知脳科学の観点から思考のプロセスを理解してアプローチすると良いですよ、ということが書かれた本をレビューしています。

ハマりたがる脳 「好き」の科学 (ハヤカワ文庫NF)

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