【レビュー】『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』

人に影響を与えたいとき、人の考えや行動を変えたいとき、科学に基づく事実をいくら説明しても無駄なことがあります。

例えば、ワクチンは自閉症と関係ないというデータをいくら示しても、接種させない親がいます。運動は健康によいというデータをいくら示しても人々はなかなか歩いたり走ったりしません。

本書の著者は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授で、認知神経科学を専門とするターリ・シャーロットです。誰かに影響を与えたいとき、目の前にいる人の頭の中では何が起こっているのかという思考プロセスを理解することから始めよう、と言っています。

私たちの思考プロセスには核となるいくつかの要素があり、相手の気持ちを変えられるのは、それらの要素と一致したときである、というのが本書の主張です。その要素として以下の7つが取り上げられています。

7つの思考プロセス
  1. 事前の信念
  2. 感情
  3. インセンティブ
  4. 主体性
  5. 好奇心
  6. 心の状態
  7. 他人
目次

事前の信念

いくらデータを示してもその人の「事前の信念」を変える役には立たないそうです。

新しいデータが提供されたとき、人は自分の先入観(事前の信念)を裏付ける証拠なら即座に受け入れ、反対の証拠は冷ややかな目で評価する、ということが実験から分かっています。

さらに、インターネットの発展によって、大量の情報が即座に得られるようになり、この傾向はさらに加速しているそうです。矛盾するようですが、豊富な情報が得られるようになると、自分の考えを裏付けるデータを簡単に見つけることができるので、自分の意見にますます固執するようになるということです。

このように、自分の意見を裏付けるデータばかり求めてしまう傾向は、「確証バイアス」と言います。残念なことに、分析能力が高い人の方が、情報を自分の都合のいいように歪めてしまう傾向があるそうです。

人間は社会的影響を非常に受けやすく、無意識に他人のまねをします。その一方で、いったん決断したり意志を固めると、違う考えを取り入れるのは難しいのです。このような人間の特性を理解することは、自分の行動を振り返るためにも必要だと思いました。

ワクチン拒否の親をどう説得するか

以上のような人間の特性をふまえて、例として出されているのが、ワクチンの副作用を恐れて子供に受けさせようとしない親をどう説得するか、です。ワクチン接種を拒否する親に、ワクチンと自閉症は関係ないといくらデータを示してもダメで、代わりに、ワクチンは死に至る病気を防ぐ、ということを強調するようにすると効果的だったという研究です。

ワクチン拒否の親も、子供のことを心配しているという点では医療者と同じです。子供を大切に思う気持ちに共感し、ワクチンは子供を守るためにあるんだ、ということを伝えられるといいのかなと思いました。

感情に訴える

同じ映画を見ている人は、同じ場面で脳の同じところが反応しているそうです。感情は非常に伝播しやすいです。無意識に相手を模倣してしまったり、人の感情に自分も刺激をされるということです。これは、周りの人の感情(特に不安)を感じることで、自分にも危険が及んでいないかを素早く察知するという生き物としての本能からくるものです。

現代のインターネット社会でもこの性質は引き継がれていて、Twitterでツイートやリツイートしている時は感情の高まりを示す脳活動を75%上昇させるそうです。Twitterのタイムラインを読むだけでも65%上昇するそうです。

自分の感情が人々の感情を変えられる、と同時に、他人の感情が自分の気持ちを変えることもあるのです。

快楽と恐怖(インセンティブ)

人に何かをさせるためのインセンティブとして、いわゆる「アメとムチ」があります。

接近と回避の法則

私たちは、自分のプラスになる人や物事には接近し、マイナスになると思う人や物事を回避する性質があります。

報酬を得られると思うと、人間の脳は接近を促すのみならず、行動を起こしやすくなるよう設計されています。反対に、喪失への不安は、何もしない状態を引き起こすことが多いそうです。

医療スタッフに手洗いを徹底させようと思った時、きちんと行わないと病気になると言って脅すよりも、手洗い順守率が達成できたらほめられるというプラスのフィードバックがすぐに得られる方が成功しやすい、という例が挙げられていました。

何か素敵なものが得られそうな時、素早い行動が引き起こされます(ゴー反応)。それに対して、何か悪いことを予測した時、私たちは直感的に後ずさりします(ノー・ゴー反応)。つまり、人は悪いことよりもいいことを予測した時の方が、行動を起こす可能性が高くなる、ということです。

起こるか起こらないかわからないことのために人に何かをさせるのは至難の技だし、未来のムチを無視して「まずい習慣を続けたって平気」と自分に言い聞かせるのはいとも簡単だ。だからこそ、いつか重大な損失を被るぞと脅すよりも、ささやかでも確かな報酬を直ちに与える方が効果的なこともあるのだろう。たとえその警告が確実で差し迫っていたとしても(具体的なお仕置きや否定的なフィードバックなど)、ご褒美が今すぐ必ずもらえるという約束にはかなわない。なぜなら脳のゴー回路は、快楽と行動を結びつけているからだ。

3 快楽で動かし、恐怖で凍りつかせる(インセンティブ)

コントロールすること(主体性)

私は飛行機に乗ること、窓のない部屋や高層ビルの上の階に行くことが苦手です。それは、外に出たいと思った時にすぐに出られないから。飛行機が怖い、閉所が怖い、というのは結局自分でコントロールできない状況が怖い、ということだと書かれてあって、やっぱりそうだったのか、と思いました。

人は自分の主体性が失われると思ったら抵抗するし、主体性が強まると考えたら、その経験を受け入れ報酬とみなすものだそうです。

例えば、同じ税金を払うにしても、その使い道を自分で選べた方が納税率が高いという実験結果があります。

人の考えを変えたいと思ったら、強制するのではなく、その人が自分で選んで動いたと考えられるように持っていくことが大切だということです。

自分でコントロールしていると感じられる人は、より健康で幸せだ。

4 権限を与えて人を動かす(主体性)

好奇心を刺激する

私たちは相手に伝えたい話がある時、相手もそれを知りたがっていると思ってしまいがちですが、実際はそうではありません。自分が埋めようとしている情報のギャップを強調し、物事が良くなるためにはその知識がいかに役立つかを明らかにすることが大切です。

このことは、ブログを書くときにもそのまま当てはまりそうだなと思いました。

相手がどうしたら聴きたい気持ちになるのかを考え直し、それに応じてメッセージを再構成することが大切です。

ストレスの影響

不安やストレスは冷静な判断力を妨げます。相手がたまたま不安な1日ならこちらの主張に納得するかもしれないし、逆にリラックスした日なら心を動かさないかもしれません。

人々は異なる心理状態のもとで、それぞれに適した合図に耳を傾ける準備をしている。この原則を心にとめておくことは重要だ。たとえばこれは、不安を煽るキャンペーンがいまここでは役立たなくても、時と場所を変えれば効果的になるかもしれないことを説明してくれる。

6 ストレスは判断にどんな影響を与えるか?(心の状態)

他人の影響

私たちは、無意識に模倣し、吸収し、採用するという一連の作業を行なっています。このような仕組みが備わっているのは、その環境における自分自身の経験からだけでなく、他の多くの人の経験から得られた情報や技術を拝借することができるためです。

生徒、子供、同僚、友人など、その人に特別な関心を寄せている場合にはとくに模倣することが多いです。無意識に子供たちに影響を与えていると思うと、気をつけないとなと思います。

また、口コミサイトなどで、最初に高評価のレビューを掲載すると、それに続く好意的なレビュー数は通常より32%多くなったという実験結果もあります。一人の人間、一人のレビューが後に続くたくさんの人々に及ぼす影響の力は思ったより大きいようです。

まとめ

人に影響を与えたいとき、どうアプローチすれば効果的かを学ぶことができました。

頭ごなしに「科学的に正しいからこうしろ」と言っても相手の考えを変えることはできません。核となる7つの思考プロセスを把握し、それぞれに働きかけることでうまく影響を与えることができそうです。

私の仕事上でも、ワクチン拒否の親への説得や、考えがどうしても平行線の相手とどうやったら意見をすり合わせることができるか、ということに応用できそうだなと思いました。

あとがきにも書かれているように、事実で人の考えをなかなか変えられないということは、裏を返せば事実でないことで人をコントロールできるということでもあります。うまく誘導されないようにするためにも、人の考えはどういう時に変化するかというプロセスを知っておくことは重要だと思いました。

同じく脳科学に関する『ハマりたがる脳』のレビューです。

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