【レビュー】『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』

これがアートだというようなものは、ほんとうは存在しない。ただアーティストがいるだけだ。

目次

大人も受けたい美術の授業

小学校の図画工作、中学校の美術、どちらも私は苦手でした。不器用で、絵も苦手。作品を展示されて他の子と並べられることは恥をさらしていると感じていました。

先生がどうやって点をつけているのかもよくわからず、もともと才能があって絵が得意な人は成績がよくて、私はなにをどうやってもいい点は取れないと思っていました。

この本の著者、末永幸歩さんは中学・高校の美術科の先生です。著者が小学生と中学生に「好きな科目」を聞いたときに、小学校から中学校で一番人気を無くしたのが「美術」だったそうです。

その現状をどうにかしたい、技術・知識偏重の授業スタイルではなく、自ら考えて正解のない答えを探し出すことこそが美術の一番の魅力だ、ということを伝えたい。

そんな思いを大人にも伝わるように書籍にしたのがこの本です。

6つのクラスで扱う問いと作品

本書では、6つの授業スタイルで、それぞれ一つずつ有名なアート作品を取り上げ、アートってなに?ということに関する問いを一緒に考えます。

クラス1 「すばらしい作品」ってどんなもの?/アンリ・マティス《緑のすじのあるマティス夫人の肖像》

クラス2 「リアルさ」ってなんだ?/パブロ・ピカソ《アビニヨンの娘たち》

クラス3 アート作品の「見方」とは?/ワシリー・カンディンスキー《コンポジションⅦ》

クラス4 アートの「常識」ってどんなもの?/マルセル・デュシャン《泉》

クラス5 私たちの目には「なに」が見えている?/ジャクソン・ポロック《ナンバー1A》

クラス6 アートってなんだ?/アンディー・ウォーホル《ブリロ・ボックス》

こんな構成なので、実際に中学校で著者の授業を受けているような気持ちになりつつ読むことができました。

アート思考とは

著者は、大人にこそアートを鑑賞する心が必要、と言います。

じっと動かない1枚の絵画を前にしてすら「自分なりの答え」をつくれない人が、激動する複雑な現実世界のなかで、果たしてなにかを生み出したりできるでしょうか?

「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考

正解のない問いに自分なりの答えを見つけ出すこと、それは、社会で働く私たち大人にこそ必要な力であり、その力を使う訓練を行わなければなりません。

著者の言うアート思考とは、

  • 自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
  • 自分なりの答え」を生み出し、
  • それによって「新たな問い」を生み出す

このような思考法のことです。

また、その考え方を太陽と雲に例えてもいます。

数学が「太陽(明確で唯一の答え)」を見つける学問だとすれば、美術は自分なりの「雲(つねに形を変え、一定の場所にとどまることはない)」をつくる能力を育む学問。

「正解」をほとんど期待し得ない時代を生きる私たちにとって、自分なりの雲をつくる能力を育む美術こそが今まさに最優先で学ぶべき学問だと著者は言っています。

正解のない問いについて、自分なりに考え、なんらかの答えを出し、前へ進むこと。社会で必要なのは、学校での試験のように「正しい答え」を探すのではなく、このような力なのだと思います。

アートという植物

著者はアートを植物に例えて、3つの要素から成ると言っています。

  • 表現の花
  • 興味のタネ
  • 探究の根

の3つです。

このうち、一般的にアートと考えられているのは、作品として展示されている「表現の花」の部分です。しかし、本当に大事なのは、アーティストがその作品を作るに至るまでの「興味のタネ」と、地下深くはりめぐらされた「探究の根」なのです。

20世紀のアートのゴール

本書では、ルネサンス以降20世紀に数々のアーティストが求めてきたゴールの変遷に沿って、6つの授業が進んでいきます。

20世紀のアートの歴史は、カメラが登場したことによって浮き彫りになった「アートにしかできないことはなにか」という問いからはじまりました。
そこから、マティスは「目に映るとおりに描くこと」、ピカソは「遠近法によるリアルさの表現」、カンディンスキーは「具象物を描くこと」、デュシャンは「アート=視覚芸術」といった固定概念からアートを解き放ってきました。
そしてついにポロックは、「ナンバー1A」によって、アートを「なんらかのイメージを映し出すためのもの」という役割から解放しました。これによって絵画は、「ただの物質」でいることを許されたのです。

自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考

これまで現代アートは、なにが描かれているのかもよくわからない、理解できない、難しそう、というイメージがありましたが、このような経過をたどってきたということがわかると、鑑賞しやすいかも、と思いました。

まとめ

こんな美術の授業を13歳のときに受けたかったなあ。

私はやっぱり絵を描いたりなにかを作るのは今でも苦手なのですが、観るのは好きです。

最近は行けなくなりましたが、美術館に一人で行くのも好きでした。一番好きなのは、地元にも近い直島。瀬戸内海に浮かぶ島全体がアートになっています。

有名な草間彌生さんのかぼちゃだったり、ジェームズ・タレルの真っ暗な家など、見るだけでなく触ったり空気を感じたり、この本に書かれているように、アートを自由に楽しむことを教えてもらった気がします。また行きたいなあ。

また、子供と一緒にアート作品を見て、わかること、感じたことをなんでも言い合う「アウトプット鑑賞法」もやってみたいと思いました。

子供には、「これ合ってる?」「正解教えて」とか思わないで自由にアートを鑑賞する心を持ち続けてもらいたいです。

アート作品や音楽など、「好き」なものはどうやって「好き」になるのか、脳科学的な立場から書かれた『ハマりたがる脳』のレビューです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次