【レビュー】『生活保護 vs 子どもの貧困』大山典宏

児童相談所や県の生活保護担当として長年働いてきた専門家である著者が、生活保護と、とくに子どもの貧困についてわかりやすく説明した本です。

目次

生活保護に対する二つの考え方

生活保護に関するスタンスとしては、その原因を個人にあるとする立場と、社会構造にあるとする立場の大きく2つに別れます。本書では前者を「適正化モデル」、後者を「人権モデル」と名付けています。

適正化モデル

適正化モデルでは、貧困の原因を個人に求めます。好きな言葉は「真に必要な人は保護する」。まずは個人の就労努力や家族の支援を検討すべきとします。

人権モデル

人権モデルでは、貧困の原因は社会にあるとします、非正規雇用の増大や少子高齢化社会の中で起こる社会構造の変化が貧困を生み出している、と考えるのです。制度のはざまでこぼれ落ちる人がないよう、しっかりとした対応を求めます。好きな言葉は「人の命は何より重い」。

揺れ動く貧困対策

近年の生活保護をめぐる動きは、適正化モデルと人権モデル、2つの立場を概ね2年ごとに交互に揺れ動いている、と著者は主張しています。

2006年以前「夜明け前」

2006年以前は、生活保護の問題はほとんど話題にもなりませんでした。いわば夜明け前です。

第1の転換点:2006年「ワーキングプア」

2006年、NHKスペシャルで『ワーキングプア』が放映され、ワーキングプア、ネットカフェ難民と呼ばれる新しい貧困層の拡大が注目されました。この頃から、人権モデルが力を持つようになっていきます。

第2の転換点:2008年「年越し派遣村」

「年越し派遣村」が設置された年です。日比谷公園で開設された派遣村で炊き出しを行うと同時に、生活保護の相談ブースを設け、間口を大きく広げることに成功しました。人権モデルが最も力を持った時期です。

第3の転換点:2010年「公設派遣村」

公設派遣村が設置された年です。しかしこのときの利用者の態度が問題視され、対応への疑問の声が出るようになりました。人権モデルの限界が見えてきて、適正化モデルが徐々に力を取り戻していきました。

第4の転換点:2012年「芸人の母生活保護受給問題」

有名お笑い芸人の母親が生活保護を利用していることが発覚した年です。家族が年収何千万円もあるのに生活保護を受けるとは何事か、と大きく話題になりました。さらに、生活保護費10%削減を公約に掲げた自由民主党が政権に就き、生活保護の引き締めに向けた動きが強くなりました。

生活保護ではなく貧困について考えよう

いくら人の命より重いものはない、と言っても、生活保護の財源は納税者の税金です。少子高齢化で働ける世代の人数は減っていき、非正規雇用の人も多く、自分たちの生活もいっぱいいっぱいという人が多い中、「なぜ生活保護だけが優遇されるのか、自分たちの生活はどうなるんだ」という不満の声が増えるのも理解できます。

しかし著者は、今のように「適正化モデル」と「人権モデル」とがお互いに自分たちの意見を主張するばかりでは解決にならないと主張しています。

自分たちの声(意見)は聞いてほしいけれど、相手の声(意見)は聞きたくない。これでは、コミュニケーションは成立しません。自分と同じ意見の人だけと付き合い、異なる意見の人を「あの人の考え方はおかしい」「自分とは違う」と排除していては、共感は広がらない。私は、そう思うのです。

第5章 生活保護ではなく貧困の話をしよう

そこで著者が提案しているのが「統合モデル」です。誰もが納得する万能な解決策はないのだから、お互いの意見を聞いてそれを調整していく人しかない、と言っています。大切なのは、「貧困者」にとってどうすれば一番いいのかを常に考える視点を忘れないことです。

生活保護の立場から貧困削減を考えた時、対策は大きく3つあると言います。

  1. 貧困になる前の予防をしっかりすること
  2. 貧困になったら事態が悪化する前にしっかり支えること
  3. 早期に貧困から脱却できる体制を整えること

生活保護と子どもの貧困

適正化モデルと人権モデル、その双方が「早急に手を打つべき」という点で意見が一致しているのが「子どもの貧困問題」です。

子どもの相対的貧困率は約14%、学校の約7人に1人にのぼると言われます。日本の貧困世帯の特徴として、親が働いているのに貧困に陥っている世帯の割合が多い、ということが言われています。

また、生活保護世帯で育った子供は将来自分も生活保護を受けるようになるケースが多いという「貧困の連鎖」も指摘されています。

このような背景から、新たな生活困窮者支援システムとして、以下の5点が重要視されています。

  1. 包括的な相談支援
  2. 居住確保
  3. 就労支援
  4. 緊急的な支援
  5. 子供・若者支援

今の生活を支援する、ということにとどまらず、その先の出口に向けた支援に力を入れようとしているのです。

子どもの貧困に対する支援を考えるときには、「社会保障は『コスト』ではなく『未来への投資』である」という視点が重要です。このような考え方から、貧困世帯の子供たちへの教育支援を行うNPOなども増えてきています。その他、居場所づくりや、人とのつながりを支える活動も出てきています。

SROI(社会的投資収益率)

理想だけでは活動は維持できない。大事なのは維持していくこと。事業を維持するためには「財源」「評価」「体制」の3つともが不可欠です。

そこで最近、投資判断に用いられてきたROI(Return On Investment:投資収益率)を応用したSROI(Social Return On Investment:社会的投資収益率)という分析手法が一般化してきているそうです。

SROI(社会的投資収益率)=貨幣価値に換算された社会的価値÷投入された費用

貨幣価値に換算された社会的価値」とは、当該事業によって就労を実現した対象者が獲得した賃金や、対象者の健康状態改善による社会保障費や医療費の削減、税収の増加など。

投入された費用」とは、例えば人件費などの事業経費を言います。

このように、論理的に政策を立案し、その結果を評価し次につなげて維持する、という仕組み作りが大事だとこの章を読んでわかりました。

まとめ

生活保護に対する社会の取り組みの変遷や、子どもの貧困対策に関する今後の展望などが、とても詳しく、わかりやすく書かれていて、勉強になりました。

現場の人々を多く見てきた筆者だからこその意見だなあと思いました。

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