【レビュー】『貧困を救えない国 日本』阿部彩 鈴木大介

『子どもの貧困』の阿部彩先生と、『最貧困女子』の鈴木大介さんの対談本です。

どうすれば当事者の苦しみを理解してもらえるのか。その貧困は放置してはならないものだと、どうすれば共感してもらえるのか。感情論では動じない人々に、貧困対策を一緒に考えてもらうためにはどうすればいいのか。

大学教授とルポライターという異なった立場で、見方が違うところもあれば、貧困問題をなんとかしたいという思いは一緒、というところも感じました。

目次

絶対的貧困と相対的貧困

貧困には絶対的貧困と相対的貧困とがあります。

絶対的貧困は、人間として最低限の生活をも営むことができないような状態をいいます。世界銀行は1993年の購買力平価換算で1日あたりの生活費1ドルを貧困ラインと設定し、それ未満で生活している人々を絶対的貧困層(または極貧層)と定義しています。

一方、OECDなどの国際的機関での議論や、日本の生活保護法での基準で用いられているのは「相対的貧困」という概念です。

相対的貧困とは、人として社会に認められる最低限の生活水準は、その社会における「通常」からそれほど離れていないことが必要であり、それ以下の生活を「貧困」とする考え方です。

相対的貧困は、「等価可処分所得」が社会全体の中央値の半分(貧困線)に満たないケース」と定義されます。2015年でいうと、相対的貧困率は手取りの年間所得が1人暮らし世帯で122万円以下、4人世帯で244万円以下の世帯を指すことになります。

日本の社会全体の相対的貧困率は15.7%17歳以下の子供の13.9%にのぼります。学校の7人に1人が貧困ということになります。

相対的貧困家庭では、「時間的貧困」も併発していると鈴木さんは言います。つまり、親がたくさん働くから子供と一緒にいる時間を確保できない。心理的余裕もなく、子どもの面倒をみることができない。結果的にネグレクトが発生することになります。

また、阿部さんは絶対的貧困と相対的貧困の境界は曖昧だと指摘しています。

毎日3食食べられる人は最低限の食事が取れているから絶対的貧困とは言わない?では「最低限の食事」って何でしょうか。ゴミを漁って腐りかけの残り物を食べるのは?コンビニで廃棄弁当をもらって食べるのは?

野菜を取れなくて、毎日ご飯と納豆だけを食べるしかない子供がいます。そういう子供たちを放置していていいとは思えません。

「貧」と「困」を分けて考える

鈴木さんがこれまでずっと主張してきたのは、「貧しさと貧困、貧乏と貧困は明らかに違う」ということ。貧しくても、心身健全で環境が整っていれば、貧しさは自己解決でなんとかなる。でも、貧しさにプラスして社会的困窮や生活問題を抱えていて、孤立した状態になると、それは貧「困」になる、ということです。

さらに阿部さんは、その「貧しいけど心身ともに健全な人たち」も、貧しい状態が続くと「心身とも健全」ではいられなくなってしまう。だから「貧」への対策が必要だということを言っていました。

精神疾患と貧困

貧困の背景には、精神疾患が隠れていることも多いです。多くの人が当たり前にできていることができない、その理由の一つに脳の問題があるのではないか。脳梗塞を発症し、高次脳機能障害が残ってこれまで当たり前にできていたことができなくなってしまった鈴木さんならではの視点です。

貧困の当事者には共通の「普通の人がやれて当たり前のことができなくなっている」という症状があります。そしてそれは、貧困=強いストレス環境が続くほどに悪化していきます。
なので、まず理想から言えば、まず捕捉率を上げる。そして公的扶助につなげるにしても、その手続きごとなどを一緒にやってくれる「同行支援員」みたいな支援が欲しい。(中略)そしてようやく制度を利用できるようになったら、休息です。

第5章 精神疾患が生み出す貧困

貧困対策のアイデア

お二人の対談の中で、具体的な対策のアイデアが提案されていました。一つは電気やガス、水道などの公共料金を貧困家庭に対しては減免したり無料化すること。そしてもし支払いが滞って電気やガスを止める場合には、そこに子供がいないかどうかを確認してもらう。

これはとてもいいアイデアだと思いました。せめて子供がいる家庭はインフラが止まらないようにしてもらいたいし、支援を開始できる重要な機会にもなるからです。

また、高校の授業料が実質無償化となりますが、給食費や制服代、修学旅行代が払えない家庭もあるという事実は考慮されていない。これらの費用も無償化できないか、ということも挙げられていました。

まとめ

2020年、コロナウイルスの世界的な流行で、社会が急激に変化しました。このような時、それまでギリギリでなんとかやってきていた人たちが直接的な打撃を受けることになってしまいます。

そして、その歪みを一番受けるのは子供たちなのではないでしょうか。休校になり自宅にずっといることで虐待件数が増えたり、給食が食べられなくて食事が減ってしまったり、という話も聞きます。小児科医として、とくに子供たちの生活や健康のことが気になっています。

貧困問題のスペシャリスト同士の刺激的な対談でした。

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