【レビュー】『ギリシア人の物語Ⅲ新しき力』塩野七生

塩野七生さんの『ギリシア人の物語』もいよいよ最終巻。

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ついに!あの!!アレクサンドロスの登場です!!!

目次

アテネ・スパルタの凋落

ペロポネソス戦役でスパルタがアテネに勝利しました。そのことでアテネは覇権国の地位から滑り落ちます。一方、勝利したスパルタも、政治体制が時代遅れのままであり、ギリシアを統治する力はありませんでした。そして誰もいなくなったギリシア。その北方にあるマケドニアで、フィリッポスが王位に就きました。

アレクサンドロスの東征

マケドニア王フィリッポスはギリシア進攻の野望を抱き、ギリシア都市国家連合軍との戦いに挑みます。カイロネイアの戦いです。これがフィリッポスの息子アレクサンドロスの初陣でした。

フィリッポスは息子に指示があるまでじっとしているように命令していましたが、チャンスとみたアレクサンドロスは飛び出してしまい、しかもそれでマケドニア軍が勝利してしまうのです。父であり王であるフォリッポスとしてはめっちゃビミョーだったと思います。

フィリッポスは息子の肉体的な鍛錬だけでなく、教育にも熱心でした。なんと言ってもアリストテレスがアレクサンドロスの家庭教師です。英才教育。

アリストテレスが行ったアレクサンドロスへの教育方針は、

  1. 先人たちが何を考え、どのように行動したかを学ぶこと。これは歴史、つまり縦軸の情報。
  2. 日々もたらされる情報を偏見なく冷静に受け止める姿勢の確立、すなわち横軸の情報。
  3. これら二つに基づいて、自分の頭で考え自分の意思で冷徹に判断したうえで、実行に持っていく能力。

そんなアレクサンドロスが20歳の時に、父フィリッポスが暗殺されてしまいます。そしてアレクサンドロスが王に即位します。

そして、有名なアレクサンドロスの東征。速攻で次々に戦いに勝利し、エジプトやインドまで手中に納めていきます。インド王ポロスの象部隊との戦いのシーンとか、めっちゃおもしろいのでぜひ読んでほしいです。

アレクサンドロスとしては、本当はもっともっと遠くへ行きたかったんだろうと思いますが、いいかげんマケドニアに帰りたい兵士たちがボイコットしたので仕方なく帰ることにします。でも、帰るといいつつめっちゃ寄り道して戦いながら帰ったりするところがおもしろい。

でもそんな帰り道の途中で、アレクサンドロスは病に倒れてしまいます。現代の研究者たちによると、おそらくマラリアだろうとのことです。マケドニアに帰る前にアレクサンドロスは亡くなってしまいます。32歳という若さでした。21歳でヨーロッパを出てアジアに来て以来、一度もマケドニアにもギリシアにも帰らないまま、メソポタミアのバビロンで死を迎えることになりました。

アレクサンドロスはなぜ大王と呼ばれ、今でも人気があるのか。

若くて、強くて、自分が先陣を切って戦う勇敢さ。速攻をモットーとし短期間で勝負をつけるので味方の消耗が少ない。そして兵士たちと一緒に寝泊りするなど距離が近い、などから、リーダーでありながら愛されキャラの若者のイメージかなと思いました。

アレクサンドロスの遺したもの

偉大な王が亡くなると必ず起こるのが後継者争いです。アレクサンドロスは後継者を明言しませんでした。誰がみても適任という人物もいませんでした。そのため、彼がせっかく広げたマケドニアは大きく分けて4つに分割されます。その中でも大きかったのがセレウコス朝シリアと、プトレマイオス朝エジプト。

著者は、アレクサンドロスが遺したものとして次のものをあげています。

  • 政治的に安定したこと(ひどい悪政でなければ王政でよい)
  • 国や民族を分けていた壁を打ち壊したこと
  • ギリシア語が地中海世界の共通語になったこと
  • 各国の通貨の換算値を統一したこと

以上の全てが、一大経済圏を成立させ、その機能の継続に役立ったことは間違いない、と言っています。人々が自由に行き交い、物産も活発に交流し、言語も共通、そして大きな戦争のない平和な社会、とくれば、当然ながら学問や芸術が花開きます。こうしてヘレニズム文化が熟成していくことになりました。それがさらに後世のローマ時代へとつながっていくのです。

ギリシアは、アレクサンドルを経たことで、ローマに受け継がれていったのである。

十七歳の夏ー読者に(あとがき)

あとがきとして、「十七歳の夏ー読者に」という章が最後に書かれています。塩野さんは、調べ、考え、それを基にして歴史を再構築していくという意味での「歴史エッセイ」を書くのは、この『ギリシア人の物語』で最後にすると言っています。そのため、本書の最後には今までにない、読者に対するメッセージが書かれていて、グッときました。

あなた方が書物を読むのは、新しい知識や歴史を読む愉しみを得たいと期待してのことだと思いますが、それだけならば一方通行でしかない。ところが、著者と読者の関係は一方通行ではないのです。
作品を買ってそれを読むという行為は、それを書いた著者に、次の作品を書く機会までも与えてくれることになるのですから。(中略)
ほんとうにありがとう。これまで私が書きつづけてこれたのも、あなた方がいてくれたからでした。

十七歳の夏ー読者に

まとめ

全3巻にわたる『ギリシア人の物語』を読み終わりました。それぞれ大きな戦争をテーマにしているからか、テンポよく読み進めることができました。ローマを理解するためにはやっぱりギリシアを読まないといけないなと思いました。

『ローマ人の物語』ももう一度読み直そうかな。

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