【レビュー】善意のバトンをつなぐ。いとうせいこうが見た「国境なき医師団」

「国境の境目が、生死の境目であってはならない」

本屋さんでたまたま見つけて買った本。

タイトルのとおり、いとうせいこうさんが国境なき医師団(MEDECINS SANS FRONTIERES:MSF)を取材した本です。

国境なき医師団の名前はもちろん知っていたし、紛争や災害で苦しんでいる国に各国から集まった専門家たちが入国して活動しているんだろうな、というイメージは持っていましたが、実際に現場でどのような活動をしているのか知らなかったので、とても興味深く読みました。

目次

国境なき医師団(MSF)の組織

MSFには28か国に事務局があり、その中に日本事務局も含まれています。そして世界の様々な地域でのプログラムを5つのOC(オペレーションセンター)が企画、運営しています。(2016年当時)

  • OCP パリ(フランス)
  • OCB ブリュッセル(ベルギー)
  • OCA アムステルダム(オランダ)
  • OCG ジュネーヴ(スイス)
  • OCBA バルセロナ(スペイン)

それぞれのOCは基本的には独立して活動していますが、必要があれば助け合います。各々のOCによって活動の仕方にも個性があるようです。

国境なき医師団(MSF)に参加した理由

いとうせいこうさんは、まずOCAを通じてハイチに入り、会う人ごとに「何をきっかけにMSFに参加したのですか?」という質問を投げかけます。その回答がみんなかっこいい。

「逆よ。MSFに入りたくて看護師になったの」

「60歳を超える頃から、ずっとMSFに参加したかった。そろそろ誰かの役にたつ頃だと思ったんですよ。そして時が満ちた。私はここにいる」

「そもそも、怪我をして泣いてた子供が治療を受けて元気になるでしょ。それを見てるだけであたしたちはうれしいんすよ」

「シュバイツァーを尊敬しているから。そして家族もみんな独立して、ようやく私の番が来たから」

自分は誰かのバトンをつないでいる。ただそれだけだ。とみんなそう言うそうです。他の地域の取材でいとうさんが出会ったメンバーたちの言葉も紹介します。

「自分が何をしたいのか、ここにいるとそれがわかる」

「水は金儲けのためにあるんじゃなく、人の生活の質を上げるためにこそある。僕はそう思うんです」

「それまでわたしは中学の教師だったんです。科学を教えていて。その年齢(60歳)になった時、機会は今しかないと思った。そして、わたしは決断しました」

究極のチーム医療

産科、小児科、外科などの専門医や看護師だけでなく、インフラ整備を行うロジスティック部門、輸送、薬剤管理など医療従事者以外のメンバーが団結して活動に当たっています。日本の病院で働く以上にチーム医療が大事なんだろうと思いました。どのチームも、メンバー全員で本当によく話し合いをしているようです。

取材を進めていく中で、紛争地域などで生活そのものが大変な地域で、早産などいろいろな問題を抱えて生まれてきた子供たちを何とか救おうと必死なスタッフの姿を見ながら、果たして命を救うことだけが絶対的な善なのだろうか…と、いとうさんは複雑な気持ちを抱えるようになります。

しかし、目の前の新生児の蘇生に全神経を注いている小児科の人々を見て、俺の問い自体がナイーブなものだったと知った。彼らはこう考えるだけだ。
子供の命を救え。
それで十分ではないか。なぜなら救えない生命も彼らの前には日々現れるのだから。
そして、彼らは神ではないのだ。誰を救って誰を救わないかの線引きなど、原理的には不可能だ。
だから、子供の命を救う以外、彼らには、いや俺たちには出来ることがない。

「国境なき医師団」を見に行く

この言葉は、新生児医療に携わる私の心にもすごく響きました。

この言葉だけでもこの本を読んだ価値があったと思います。

支援される人への敬意

また、ギリシャでの活動を取材した時には、スタッフの間に難民の方々に敬意を持っていることに気づきました。それは憐れみではなく、何かを崇めるかのような感じさえありました。それがなぜなのか、考え続けて、いとうさんが得たひとつの答え。

彼らは死ななかったのだ。
苦難は彼らを死に誘った。しかし彼らは生き延びた。そして何より、自死を選ばなかった。苦しくても苦しくても生きて今日へたどり着いた。
そのことそのものへの「敬意」が自然に生じているのではないか。
俺はそう感じたのである。
善行を見て偽善とバカにする者は、生き延びたものの胸張り裂けそうな悲しみや苦しみを見たことがないのだ。
むしろ苦難を経た彼らを俺たちは見上げるようにして、その経験の傷の深さ、それを心にしまっていることへの尊敬を心の底から感じる。感じてしまう。
それが人間というものだ、と俺はいきなりな理解へとたどり着いた気がした。

明日、俺が彼らのようになっても不思議ではないのだ。
だからこそ、MSFのスタッフは彼らを大事にするのだとわかった気がした。スタッフの持つ深い「敬意」は「たまたま彼らだった私」の苦難へ頭を垂れる態度だったのである。

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世界各国からさまざまなバックグラウンドを持って集まったメンバーが一緒に活動することの難しさ、物資も設備も十分でない状況でできる限りのことをやるしかない葛藤。大変なことも多いでしょうが、使命感で活動する人たちの姿はかっこいい。

いつか私の番が来たら参加したいと言う気持ちもありますが、今できることとして、この本を読んだあとMSFへの寄付を始めました。

写真もたくさん載っていて、心に残る言葉も多く、これからも読み返したい本だと思いました。

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