【レビュー】『Dr.STONE』の元ネタ?『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』

この世界が突然終わりを告げたとしたら、残された人々は現在の文明を復活させるためにどう行動するべきか。

そんな思考実験を行った本です。著者のルイス・ダートネルはレスター大学の特別研究員で、宇宙生物学を研究する傍ら科学の普及活動も積極的に行っている研究者です。

今週刊ジャンプで連載中の人気マンガ『Dr. STONE』の元ネタ(参考文献)とも言われている本です。

目次

この思考実験の前提条件

本書で行われている思考実験に最適な条件は、極端な人口減少が急激に起きて、今使われているモノがそのままの状態で残されているケースです。つまり、人はほとんどいなくなっているけど、物は残されている、という状態。

そのようなシナリオに至る例としてウイルスによるパンデミックが取り上げられているのも、今読むと不気味ではあります。

その状態から、どうすれば少ない人数で文明を一から再建できるか。現代社会の知識を持った状態で文明の発展を再現する、というのが本書のテーマです。

まずは場所、水、食料の確保から

まずはショッピングセンターに行こう

残された人類が、まず最初に確保したいのは、安全な場所と、水、食糧です。

そのためにベストなのは、大きめのショッピングセンター。雨風をしのげて、水も食糧もある場所です。

水はペットボトルに入れて太陽光で殺菌しましょう。太陽光を利用した水の殺菌方法(SODIS)は発展途上国でWHOも推奨しているそうです。

食料は、まず生鮮食品、乾麺から日持ちのする根菜類、最後に缶詰めなどの保存食品を食べるようにすれば、スーパーを丸ごと独り占めできた場合、約55年間、ペットフードも食べれば約63年は生き延びられるそうです。

畑で作物を自給自足する

できれば早々に畑を作って自分で食糧を作るとよいでしょう。どうにか生き延びるのに必要な食物を作るところをまずは目標とし、さらに機械化や肥料などで生産性を上げ、安定して収穫できるシステム作りを考えましょう。

食糧の長期保存を考える

食べかたも、最初はそのまま食べるしかないでしょうが、食中毒の心配や、保存のことを考えると加熱調理したほうがよいです。長期保存のためには乾燥、塩漬け、酢漬け、発酵などを行いましょう。塩は海水を蒸発させて作ります。缶ビールの底には生きた酵母が沈殿しているので、それをゲットして発酵食品に利用しましょう。お酢は後述する炭焼きから作られます。

木材と炭酸カルシウムは重要な材料

木材

安全な場所、水、食糧が確保できたら、次は燃料です。熱エネルギーは最も基本的な燃料です。一番手軽なのは、薪を燃やすこと。さらに炭を作ればもっと長く燃やすことができます。炭焼きでできた廃棄物から酢酸、アセトン、メタノールができます。酢酸は酢漬けに利用します。

炭酸カルシウム

生活に必要な物質を自分たちで加工するために最初に必要なのが炭酸カルシウムです。これは石灰岩に多く含まれます。炭酸カルシウムは、農業用石灰として使うと作物の生産性を大きく上げることができます。さらに高温で熱することにより酸化カルシウムとなり、これを水と反応させると消石灰(水酸化カルシウム)となります。薪の燃えかすと消石灰を組み合わせると石鹸を作ることができます。手洗いは生き延びるための感染予防に最も大切です。

感染症を防ぐ、治療する

現代文明が崩壊すると、医療体制もリセットされてしまいます。命を守るために一番気をつけないといけないのは、感染症です。石鹸を使った手洗い励行が感染予防に最も効果的です。それから排泄物が飲料水に混入しないように気をつけること。それでも胃腸炎になってしまったら、水に塩と砂糖を混ぜた液による経口補液療法(ORT)を行います(オーエスワンですね)。

医薬品として欲しいのは、抗菌薬と、麻酔薬です。まさに、大沢たかおさんのドラマ『JINー仁』の世界です。『JINー仁』でも、コレラが蔓延したときにORTを行ったり、青カビからペニシリンを作ったり、麻酔をかけて手術をしたりしていました。

本書には、生き残った人に医学の知識があったとしても、多くの人を助けられるほどの医薬品を製造するシステムを作るためには、一定レベルの高度な文明を復興させていないと難しいだろう、と書かれていました。

輸送を再興する

世界の破局後、しばらくの間は残された自動車を残されたガソリンで走らせることになるでしょう。その後は発酵によって作るエタノールや、排泄物から産生されるメタンガス、植物油とエタノールを反応させたバイオディーゼルエンジンを代替品として使います。

機械化する手立てがなくなったら、動物の力を使いましょう。牛や馬の牽引力と、残された自動車の後ろ半分を組み合わせた(動かなくなったエンジンの入った前半分は切り落とします)新たな乗り物が日常風景になるかもしれません。

情報を伝達する

インターネットやスマートフォンは使えなくなるので、一旦は昔ながらの情報伝達技術に戻らなければならないでしょう。まずは紙に筆記することです。情報を筆記することで、後世に情報を残すことができます。知識を後の世代に引き継ぐことで文明は発展していきます

社会を文化的、科学的、技術的に成長させるのは、筆記による知識の蓄積なのである。

第10章 コミュニケーション

グーテンベルクが発明した印刷技術は、情報を広く人々に伝達したり、世代を超えて知識を受け継ぐのに役立ちます。さらに文明が発展すると、電気通信が生まれます。モールス信号や音声での伝達を行うことができるようになります。

科学の発展は正確に計測することから

科学の基本は、さまざまな自然現象を測定し、数値で表すことです。そのためには正確な計測器を組み立てること、数値の単位を決めることが重要です。現在国際単位系で決められている長さ、質量、温度、時間を正確に定義することが必要となります。

自然や物事を正確に観測することで、未来に起こりうることが予測できるようになります。それが科学の発展の基礎となると著者は言っています。

まとめ

この世界が、ある一つ突然、少数の人間を残してあとは消滅してしまったら、現代文明が発展してきた過程を短時間でやり直すことになるだろう、という思考実験を描いた本でした。

本の中では、それぞれの材料や物質を作り出す方法などがもっと詳しく説明されていておもしろいです。ぜひ読んでみてください。

世界の破局から生き残った人は、科学の知識のありがたさを感じることでしょう。再建までにどれくらいかかるかわかりませんが、こうやって文明の発展を振り返ってみると、めっちゃ大変だけど人間はなんとかするのではないか、という希望が湧いてきました。

科学は自分が何を知っているかを並べているわけではない。むしろ、どうやってわかるようになるかに関するものなのだ。結果ではなく過程なのであり、観察と理解のあいだを行ったり来たりする果てしない会話なのであり、どの説明が正しく、どれが間違っているのかを決める最も効果的な方法なのである。それゆえに科学は世界の仕組みを理解するための、これほど有益な体系となっている。知識を生みだす、強力なマシンなのだ。そして、だからこそ科学的手法そのものが、あらゆるもののなかで最大の発明なのである。

第13章 最大の発明

マンガ『Dr. STONE』の元ネタという話もあります。マンガ読むの苦手ですが、読んでみたいなあと思っています。

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