【レビュー】大切なのはロマンとソロバン『武器としての交渉思考』瀧本哲史

「複数の人が集まってひとつの目標に進むときには、大きなビジョン(ロマン)と、それを実現させるためのコスト計算(ソロバン)の両方が大切になる」

京都大学客員准教授、かつエンジェル投資家だった瀧本哲史さんの京都大学での講義を書籍化したものです。

残念ながら瀧本さんは2019年に47歳という若さで亡くなってしまいました。

『2020年6月30日にまたここで会おう』という本が、私が初めて読んだ瀧本さんの本です。この本の中で「交渉」が大事だよ、ということを強調されていたので、その「交渉」に特化して書かれた本書を読むことにしました。

目次

「王様と家来モデル」の崩壊

瀧本さんが「王様と家来モデル」と名付ける、トップダウンの、上からの命令は絶対、というモデルはもはや通用しない、と最初に述べられています。実際、この「王様と家来モデル」の代表と思われていた自衛隊とJリーグからも、瀧本さんは講演依頼を受けたそうです。

同じく、大学の研究室も、教授からの一方的なトップダウン体制では、新しい発見は得られない。教授もスタッフも学生も対等に意見を出し合える雰囲気が必要。大学の授業でも一方的に話を聞いてノートを取り試験を受けるのではなく、お互いに意見を出し合う双方向の授業がこれからますます重要となってくるでしょう。実際に、京都大学の瀧本さんの授業は、学生からも意見がバンバン出てくる、熱気溢れるものだったそうです。

社会生活を送るうえでも、立場や意見の異なる人たちが、ある共通の目的のために協力してプロジェクトを行うことがあります。そのときに必要となる能力が、交渉する力なのです。

ロマンとソロバンを結びつけるのが交渉

人は、日常生活のあらゆる場面で「交渉」を行なっています。取引相手との契約内容のようなものから、お小遣いの値上げ、晩ご飯のメニューなどなど。2人以上の人間が集まったら、必ず交渉の必要が出てきます。

「交渉」には、ロマンソロバンという2つの側面があるといいます。初めに大きなビジョン(ロマン)があり、それを実現させるためのコスト計算(ソロバン)が必要となります。そのどちらかではダメで、熱意ある目標を実現するための計算が必須です。

ロマンを達成するために、自分と相手の利害関係やもろもろのコストを分析・計算し、ロジックを駆使して、互いに納得のいく合意を作り出し、ときには全く違う切り口からクリエイティブな解決法を導き出して、新しい価値を生み出す。

1時間目 大切なのは「ロマン」と「ソロバン」

そんな「交渉」は、AIにはできません。人間にしかできないことです。だからこそ、私たちは交渉を学び実践する必要があるのです。

自分の立場ではなく相手の利害に焦点を当てる

交渉の基本は、自分の要求を述べることではなく、相手の求めていることは何かを分析し提案することです。

僕が可哀想だからどうにかして!」ではなく、「あなたがこうすると得しますよね」という提案です。いちばん大事なのは「相手のメリット」を実現する提案をすること、そのうえで自分もメリットを得られるようにすることです。

交渉を行うための武器

交渉を行う上で、武器となる考え方がいくつか挙げられています。

BATNA (Best Alternative to a Negotiated Agreement)

バトナ(BATNA)とは、「相手の提案に合意する以外の選択肢のなかで、いちばんいいもの」ということです。相手の提案した選択肢しか知らなければ、それが自分にとっていいものか損するものか判断できません。まずは複数の選択肢をもつことが重要です。

このことは、転職など自分の人生に関する選択をする上でも重要で、他に選べる選択肢があるからこそ職場での交渉も可能となります。自分の仕事においてバトナがないと、他にいくらでも代わりのある「コモディティ人材」になってしまうと書かれています。

ZOPA (Zone of Possible Agreement)

自分と相手のバトナが把握できるようになると、「合意できる、できない」範囲がわかるようになります。その「合意のできる範囲」のことをゾーパ(ZOPA)と言います。交渉を行う前に、この範囲を考えておかないと、有益な交渉ができません。

通常、自分のゾーパは分かりますが、相手のゾーパは教えてくれないので、さまざまな情報を集めておいて、予測することが必要となります。

そもそもゾーパがない、ということもあります。バトナを見直すことで、ゾーパが生まれて交渉の余地ができることもあります。しかし、徹底的に分析した上で自分がその数値を希望するためにゾーパがないのであれば、それ以上交渉するのは時間の無駄、ということになります。

アンカリング

アンカー(錨)ともいうべき「最初の提示条件」によって、交渉相手の認識をコントロールすることです。どんなに法外に思える条件でも、提示されるとそれを基準に考えてしまう、という心理が働きます。

例えば出店などでの値切り交渉でも、最初にむちゃくちゃ安い値段の提案をして、さすがにそれは、という感じで少しずつすり合わせていくと、最初から現実的な価格を提案した時よりも安く買える、ということがあると思います。

逆に考えると、相手が条件を提案してきたときは、アンカリングされないように「この条件の設定自体に何かおかしいところがあるのではないか?」と常に疑ってみることが大切です。

どちらかのビッグウィンは、もう一方のスモールウィン

交渉がうまくいったとき、「お互いウィンウィン(Win-Win)だ」ということがありますが、本来、取引が成立したらすべてウィンウィンなはず。重要なのは、どれくらいウィンか、ということです。自分と相手がどれくらいのウィンを手に入れたかを常に把握することが大切だと著者は言っています。

まとめ

ここ数年、瀧本さんは20歳代の若者に向けて積極的に講義を行っていました。自分の話を聞いて、何か一つでも若者が実際に行動を起こしてくれて、世の中が少しでもいい方向に変わってくれるのを期待してのことでした。

私が瀧本さんが亡くなった後に瀧本さんのことを知ったので、もうお話が聞けないと思うと残念で仕方ありません。でも、その考え方、伝えたいことはこうして書籍として残っているので、これからも何度でも読むことができるのはありがたいです。

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