【レビュー】『キリン解剖記』郡司芽久

本書は、物心つく前からキリンが大好きだった著者が、キリンの研究者として成長していく様子がリアルに描かれている一冊です。

キリンを30頭以上解剖しているキリンの研究者が日本にいたということを私は知りませんでした。

Hibino’s Point
  • なぜ?をずっと大切に持っておくこと
  • 本当におもしろい研究テーマは考えて考えて考えたそのさらに一歩先にある
  • 今すぐ役には立たないけど、100年後役立つかもしれないときのためにすべてを保存するのが博物館
目次

キリンの不思議

なぜあんなに長い首を上下に動かせるのか

キリンと言って誰でも一番に思い出すのはあの長い首でしょう。私は、キリンの首の骨(頸椎)はヒトよりもずっと数が多いからあんなに滑らかに上下に動かせるんだろうなと漠然と考えていました。

しかし実は、キリンの頸椎の数は私たちヒトと同じ7個なんだそうです。1個1個が大きいだけで、数は同じ。じゃあなんであんなに可動域が大きいんだろう。

そんな疑問を持ち続けていた著者は、何頭ものキリンを解剖していく中で、キリンは他の哺乳類と違って、第1胸椎がそこまで固定されておらずよく動くことを発見。肋骨がつくので確実に胸椎なんだけど、いわば「8番目の”首の骨”」であることを突き止めました。

確かに、キリンの首って上方向だけじゃなく、水を飲むときは地面にまで届かせないといけないもんな。相当可動域が広い。その秘密は首の骨とくに第1胸椎のつくりにあったんですね。

キリンの角は何本?

本書には、コラムがいくつかあって、その中に「キリンの角は何本か」問題が取り上げられていました。答えは3本。

私は、てっきりキリンの角は2本だと思い込んでいましたが、そう言われてみて画像検索してみると、確かに頭のてっぺんの2本の他に額にも1本角があります。

キリンの角は皮骨といって、頭骨とは関係なく皮膚の中で独自に作られる骨でできているそうです。そのため、若いキリンでは角の骨と頭骨が離れていますが、成長とともに癒合していくそうです。

キリンの角は後頭部の2本を合わせて全部で5本、と書かれているネット記事もありましたが、郡司さんによると、後頭部の2つの突起は頭骨の一部が変形してできたもので、他の角のように皮骨からできたものではないため、角とは言わない。キリンの角は3本です、とのことでした。

キリンの血圧はどう維持されているのか

前から少し不思議に思っていたのが、キリンが首を高いところから地面まで大きく動かすと約5mも高さが変化するのに、血液をちゃんと頭に送れるのかな、という疑問です。

キリンは地球上で最も高血圧な動物。高いところにある頭まで血液を送り出すために心臓の筋肉はかなり分厚くなっていますが、意外に心室腔は狭く、1分間の心拍出量はそれほど多くない。ではなぜそんなに血圧が高いのか。それは血管抵抗が著しく高いからではないか、と言われています。ではなぜそんなに血管抵抗が高いのか、そのメカニズムはまだ明らかになっていないようです。

また、キリンを始め多くの偶蹄類では、頭の位置で脳へいく血流が大きく変動しないよう「ワンダーネット」という毛細血管の塊が後頭部にあるそうです。

それにもかかわらず、デンマークの研究チームによると、キリンが頭を下げると頭部の血圧が150→220mmHgへと大きく上昇し、一度下げた頭を再び上げると逆に150→50mmHgへと急降下したそうです。

実際動物園でキリンを見ていると、水を飲んだ後、頭を上げて遠くをぼーっと見ていることがあるけれど、もしかしたら頭の血圧が急に下がって本当にぼーっとしているのかもしれない、と書かれていておもしろかったです。今度動物園に行ったらキリンをじーっと見てみよう、と思いました。

研究者になるまでの道のり

キリンの解剖について、ヒトとはいろいろと違うんだなあ、という気づきがあっておもしろかったのですが、それ以外にも、研究者としてやっていくにあたっての苦労とか、気持ちの持ちようとかが書かれていたのが興味深かったです。

研究テーマについて悩んでいた時に、先輩から言われた言葉。

「凡人が普通に考えて普通に思いつくようなことって、きっと誰かがもう既にやっていることだと思うんだよね。もしやられていなかったとしても、大して面白くないことか、証明不可能なことか。本当に面白い研究テーマって、凡人の俺らが、考えて考えて考えて、それこそノイローゼになるくらい考え抜いた後、更にその一歩先にあるんじゃないかなあ。だから、そうやって悩みながらいっぱい考えてみるといいよ」

ノイローゼの向こう側

「8番目の首の骨」を見つけてから、キリンから「大事なのは手段ではなく目的だよ」と言われているような気がする、と著者は書いています。

自分の力ではどうしても変えられないことは、きっと世の中にたくさんある。大事なのは、壁にぶつかったそのときに、手持ちのカードを駆使してどうやって道を切り開いていくかだ。逃れられない制約の中で、体の基本構造を大きく変えることなく獲得された「キリンの8番目の”首の骨”」は、私にそんなことを教えてくれた。

おわりに

また、著者はこれまで多くのキリンやその他の動物を解剖し、骨格標本として博物館に納めてきましたが、どうしてそんなに多くの標本を作るのかというと、博物館には「3つの無」という理念があるからだ、と書いています。

「3つの無」とは、無目的、無制限、無計画、です。今、何の役に立つか、ではなく、100年後に誰かの役に立つかもしれないからとにかく集めておく、というのが博物館の理念だ、と。なるほど、と思いました。

今、科学の世界では「選択と集中」と言われるように、役に立つ研究を選んで予算を集中させる、という流れがありますが、本当の科学の進歩はそれだけじゃダメなんじゃないかなあ、と思っていたので。何の役に立つか分からないけど、とりあえず全部保存しておくと後で役に立つかもしれない、という博物館の存在意義をなくしてはいけないなあと感じました。

まとめ

めずらしい「キリン研究者」の日常や、研究者として大切なことは何か、好きなことを仕事にするのってやっぱりいいな、などなど、いろいろ感じて刺激をもらった1冊でした。

久しぶりに子供たちと一緒に博物館や動物園に行きたいなあ。

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