【論文】ロタウイルスワクチンのジレンマ

Dilemmas With Rotavirus Vaccine: The Neonate and Immunocompromised
Melissa Chiu et al.
Pediatr Infect Dis J 2019;38:S43-S46
doi: 10.1097/INF.0000000000002322

目次

要旨

ロタウイルスは小児の重症胃腸炎の最もポピュラーな原因である。ロタウイルスワクチンの定期接種導入によって、5歳以下の小児におけるロタウイルス胃腸炎による入院は大きく減少した。しかし、他のワクチンと違って、摂取が遅くなると腸重積のリスクが高まるため、初回接種を生後15週未満で行い、24−32週までに完了するという期限が決まっている。一般集団でのロタウイルスワクチンの安全性は報告されているが、早産児や免疫不全の乳児における安全性は議論の余地がある。

(ここでは、早産児におけるロタウイルスワクチンの安全性について書かれた部分を取り上げます)

生後2ヶ月時点では早産児はまだNICUに入院していることがあり、NICU内でのワクチン株の水平感染への配慮からロタウイルスワクチンが接種されないことも多い。しかし、早産児は重症ロタウイルス感染症のハイリスク群であること、母体から十分なIgGが移行していないことから、ロタウイルスワクチンによる予防の安全性や効果について議論することは重要である。

安全性

1009名の早産児を対象としたランダム化試験によると、RV1ワクチンはプラセボと比べて早産児における重症副反応の発症頻度に明らかな差はなかった。この試験では早産児をその出生週数によって27−30週、31−36週の2群に分けている。出生週数によって重症副反応のリスクに差はなかった。RV5ワクチンに関しても結果は同様だった。

効果

早産児においても、健康な正期産児と同様の免疫原性を認めた。早産児に対するロタウイルスワクチン接種は、ロタウイルス胃腸炎による入院を減らす効果があった。2070名の早産児(25−36週出生)を対象とした大規模ランダム化二重盲検試験(REST)によると、プラセボと比べて入院やER受診を減らすという結果だった。

水平感染と排泄

RESTスタディによると、ワクチン株の水平感染は初回接種から4−6日後に起こっていた。Hsiehらの研究では、初回投与の4−7日後に排泄されるという結果だった。Smithらの研究では、RV5の初回投与から0−15日後に排泄されるという結果だった。ワクチン接種した児からプラセボ児への感染は8つの研究で検討されているが、実際に感染があったのは945例中5例のみだった。ドミニカ共和国での研究で、15例の水平感染が見られたが、症候性のものは1例もなかったと報告されている。Hiramatsuらは、RV1とRV5を接種した児から未接種児へのウイルス伝播を調べて、未接種児の便からはワクチン株は見られなかったと報告している。以上のことから、ワクチン接種していない者への水平感染はありえるが、副反応を起こすことは考えにくいと言える。

NICU内におけるワクチン接種

英国やオーストラリアでは、NICU内でも標準スケジュールに沿ってワクチン接種が行われている。一方アメリカでは退院するまでワクチン接種は行われていない。ある研究によると、アメリカの63%の児は退院時に大きくなりすぎていてワクチンが接種できていない。アメリカの多くの新生児がNICU入院中にワクチン接種の機会を失っている。NICUでのワクチン接種後の院内感染や、胃腸炎症状や哺乳不良などのリスクは増えないので、ロタウイルスワクチン接種はNICU内の児に対して許容されると言えるだろう。

Background

2020年10月からロタウイルスワクチンが定期接種化されます。これまで日本のNICUでは、水平感染予防の観点からNICU内でのロタウイルスワクチン接種を行なっていないところが多かったです。

しかし最近、ロタウイルスワクチン接種後の水平感染は頻度が少なく、感染があったとしても症状を起こすことはほとんどないということがわかってきました。英国やオーストラリアではすでに通常のスケジュール通りにNICU内でも接種が行われているそうです。今後の対応を考える上で重要な論文だと思いました。

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