【レビュー】『クリーンミート 培養肉が世界を変える』

何かを変えたいなら、新しいモデルを築いて、既存のモデルを時代遅れにすることだ

目次

培養肉とは

培養肉とは、動物の個体からではなく、細胞を組織培養することによって得られた肉のことです。もともと医療の分野で発展してきた技術を食品に応用したもので、世界的に注目され開発が進んでいます。

生医学で使われている組織工学の技術は、培養肉の生産に利用する方が容易に成功に結びつくのではないか。というのも、生医学では、培養した組織が移植後も完全に機能する必要があることが大きな壁になっているのに対し、食品なら筋肉組織を大きくするだけでいいからだ。

クリーンミート

培養肉が注目されているのは、以下のような観点から、現在の工業的畜産の問題点を解決できる可能性があるからです。

  • 動物愛護
  • 地球環境保護
  • 感染症予防
  • 抗生物質濫用

地球環境を守るという観点については、鶏卵1個を市場に出すのに190リットルの水が、牛乳1ガロンができるまでに3400リットルの水が、牛1頭に対して1日に9キロ以上の飼料が必要と言われています。

また、養鶏場に起因するパンデミックの脅威について、米国公衆衛生協会(APHA)が2007年に論説文を出しています。

不思議なことに、基本的に動物を食べるのをやめたり、少なくとも食べる量を大幅に制限したりするなど動物の扱い方を変えることは、重要な予防策としてはほとんど検討されていない。そうした措置や規制を十分に講じれば、危惧されるインフルエンザ流行のリスクをさらに減らせるだろうし、それ以上に、将来起こり得る未知の病気の予防にもなるだろう。動物を集中的に飼育し、食料とするために殺すいまのやりかたを変えなければ、未知の病気が生じる危険は常にある。にもかかわらず、私たち人間はこの選択肢を考慮しようとしていない。

米国公衆衛生協会

動物の肉から培養肉へ

正直、私は肉を食べるのを拒否してヴィーガンになるほど動物愛護の気持ちがあるわけではないし、家畜を育てて食べるのは早くやめるべき、とまで今考えているわけではありませんが、たとえば数十年前までは普通にどこでも吸われていたタバコが、今は「え、タバコなんか吸ってるんですか」というような空気になっているように、何年か後に、気づいたら「え、まだ動物の肉食べてるんですか」という空気になっているのかもしれないなとは思います。

「30年ほど経てば、動物を殺す必要はなくなるだろうし、肉はすべて、いま食べている肉と同じ味のクリーンミートか、または植物由来のフェイクミートになるだろう。しかも、その肉はきっと、いまより健康的になっている。将来、私たちは昔を振り返って思うだろうね。動物を殺して食べていたなんて、祖父母の時代はなんて野蛮だったんだろうって」

クリーンミート
リチャード・ブランソン

日本のスタートアップ インテグリカルチャー

私が培養肉という言葉を初めて聞いたのは、バイリンガルニュースというポッドキャストでインテグリカルチャーの羽生さんがゲストに来ていた回を聞いた時でした。

インテグリカルチャーは、2015年創立の日本のスタートアップで、宇宙や火星での食肉培養を念頭に研究を行なっており、2017年には培養フォアグラを試作しているそうです。

このポッドキャストの中で、なぜ羽生さんが培養肉をやるようになったのか聞かれて、動物愛護や環境問題などと言う人も多いが、自分は単純にSFぽくていいと思ったから、というようなことをおっしゃっていて、おもしろいなと思いました。

培養肉は、最近ではクリーンミートとも呼ばれるそうです。その意味するところは、工業的畜産と違って無菌状態で生産される清潔さと、クリーンエネルギーと同じく環境に負荷をかけないということです。

GFI(グッドフードインスティテュート)のブルース・フリードリヒは仲間の研究者たちと、培養肉を「クリーンミート」と呼ぶのは再生可能エネルギーを「クリーンエネルギー」と呼ぶのに似ていると話し合った。クリーンエネルギーはソーラー、風力、地熱など、地球にやさしいさまざまなエネルギー源を包括的に呼ぶ呼称だ。培養技術で畜産品をつくれば動物を飼育し殺すよりははるかに多くの資源を節減できるうえ、気候変動に与える影響もずっと少なくて済む。クリーンエネルギーにたとえるのはぴったりだと思われた。何より、培養肉は安全性が高い。大腸菌やサルモネラ菌などの腸内細菌がないのだから、ますます「クリーン」と呼ぶのにふさわしい。そうフリードリヒは言う。通常の生肉は細菌だらけなので、接触後の調理台は消毒する必要がある。そんな従来の食肉とちがって、クリーンミートは生のままでも完璧に安全だ。汚染源になるとしたら、肉よりもむしろ人間の手のほうだろう。

クリーンミート

まずは革製品から

このように、現在地球が抱えている問題の多くを解決できる可能性を持つクリーンミートですが、一般的な認知度はまだ低く、実験室で作られた肉なんて大丈夫か、というような反応も多いと思われます。その精神的な壁を取り払うべく、まずはレザー製品から培養業界の製品を浸透させようという試みも行われているようです。

確かに、いきなり培養された肉を食べるより、培養された細胞でできた革製品を使う方がハードルは低いように思います。

地球環境や動物に優しく、清潔で、新しい感染症が発生するリスクのないクリーンミートは、これからの私たちの生活に日常的に存在するようになるかもしれません。先にご紹介したインテグリカルチャーや、たんぱく質繊維を使用したTシャツを作っているスパイバーなど、日本企業の活躍も期待される、注目の分野です。

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