Do Your Homework.
2012年6月30日に東京大学伊藤謝恩ホールで行われた瀧本哲史さんの講義を書籍化したもの。私は瀧本さんが2019年8月に47歳という若さで亡くなった、そのあとで瀧本さんのことを知りました。
『ミライの授業』で初めて瀧本さんの本を読んで、未来を担う子供たちへ愛に溢れた、熱いお話をされる方だなあと思いました。今回、この本を書店で見つけて、不思議なタイトルに惹かれて購入しました。
「カリスマモデル」ではなく「武器モデル」
エンジェル投資家であり、基本的には表に出ないようにしていた瀧本さんでしたが、だんだん考えが変わってきたと言います。
その一番の理由は「日本への危機感」。日本を捨てて海外へ渡るという選択肢を考えたこともあるそうですが、日本にはまだ「残存者利益」があると考え、残ることにしたそうです。
では日本に残存して、どうやって日本をよくしていくか。それが瀧本さんの言う「武器モデル」です。
次の日本を支える世代である若い人たちが自由人として生きていくために必要不可欠な「武器としての教養」を配りたい。
アリストテレスが「ものを言う道具」と言った「奴隷」になるのではなく、自分で決めることができる若者を増やしたい。
というのが瀧本さんの活動のモチベーションです。
誰かすごい人がすべてを決めてくれればうまくいく、という考えはたぶん嘘で、「みなが自分で考え自分で決めていく世界」をつくっていくのが、国家の本来の姿なんじゃないかと僕は思ってます。
2020年6月30日にまたここで会おう
最重要の学問は「言葉」である
アラン・ブルームは「教養の役割とは、他の見方、考え方があり得ることを示すこと」と言いました。
学問や学びというのは、答えを知ることではなくて、先人たちの思考や研究を通して、「新しい視点」を手に入れること。「わかりやすい答え」を求める人向けにインスタントな教えやノウハウを提供するのは簡単だけど意味がありません。
瀧本さんは、バッサリと一言。
「自分の人生は自分で考えて自分で決めてください」
自分で考えるためには、考える枠組みが必要です。その枠組みが教養であり、リベラルアーツです。
では、教養の中で何を一番に学ぶべきか。瀧本さんは「言語」がもっとも重要だと言います。
まず「言葉」によって正しい認識にいたり、「言葉」を磨くことでその認識の確度を上げていく。そして「言葉」を使って相手の行動を変えていくことで、仲間を増やし、世の中のルールや空気を変えていくことが可能なんです。
2020年6月30日にまたここで会おう
「パラダイムシフト」とは世代交代である
これまでの世界の歴史の中で起きた「パラダイムシフト」は、ある日突然みんなの考え方がガラッと変わったのではなくて、古い考え方の支持者がだんだん歳を取って死んでいって、相対的に新しい考え方の人が増えていって・・・というふうに、一言で言うと世代交代によって起きている。
だからこそ、時間はかかるかもしれないけど、これから若い人たちもパラダイムシフトを起こすことはできる。つまり、世の中が変わるかどうかは、若者世代が、これからどういう選択をするか、どういう「学派」をつくっていくかで決まるのです。
交渉術について
瀧本さんは、『武器としての交渉思考』という本も出されていて、交渉をとくに重要視しています。本書に書かれている交渉術のポイントは以下の通りです。
相互依存の社会では、見かけ上の強い弱いとは関係なく、交渉することによって自分を非常に有利な状況に持っていける。それくらい交渉は重要。
「僕がかわいそうだからどうにかしてほしい」ではなく、「あなたが得をするからこうすべきだ」が交渉の基本。
こちら側の主張をたくさんするよりは、相手側にたくさん聞いて、相手が何を重視しているかを分析したうえで、最終的に「だったら、これはどうですか?」と提案するほうが、交渉がまとまる可能性が高まる。
瀧本さんが交渉術に特化して書いた本『武器としての交渉思考』のレビューです。
人生は「3勝97敗」のゲームだ
社会変革というのは、ひとりの大きなカリスマをぶち上げるよりも、小さいリーダーをあちこちにたくさんつくって、その中で勝ち残った人が社会でも重要な役割を果たしていくというモデルのほうが、はるかに健全だと思っています。(中略)
2020年6月30日にまたここで会おう
だから、いろんな立場の人が、バラバラの場所でいろんなことをやったほうがいいんです。(中略)
失敗は織り込み済みなんです。それでも悲観することなく行動できるかどうかを、みなさんに問いかけているんです。(中略)
要は「3勝97敗のゲーム」なんですね。でも全然悲しむことはなくてですね、失敗した人はまた再チャレンジすればいいだけです。そうやって失敗と成功をぐるぐる回していって、社会を良くしていくのが、資本主義の素晴らしいところなんですね。
大学というのは、いろんなバックグラウンドの人が集まって、その人たちが自由気ままに研究を進めるなかで刺激を与えあうことで、新しい知を生み出す場所。「ユニバーシティ」というのは、多様な知恵や人材が一つに結び付く理想の場のことです。
みんなの立場はそれぞれ違うから、全員を一つの意見に統一するのはむずかしい。でも、ある一つの重要事項に関しては、みんなが組むことで世の中を変えていくーそういったマインドと仕組みが必要不可欠。
そしてそのときに大切になってくるのが「交渉」の考え方。交渉思考をうまく使うことで、自分らと意見も思想も違う人たち、敵対する人たちすら仲間にしながら、社会を正しい方向に進めるためのアクションを起こすことができる。そう瀧本さんは言います。
失敗してもいい、むしろ失敗は予想範囲内。失敗を恐れず、それぞれの人が行動すること。その中で成功するケースがいくつか出てきて、それを繰り返していくうちに、全部の考え方が一致しなくても、ある目的のためだけに力を合わせて人が集まり、少しずつ大きなことができるようになってくる。
そう思えば、とにかく最初の一歩を踏み出すということが怖くなくなる気がしました。
よき航海をゆけ
『2020年6月30日にまたここで会おう』という本書のタイトルは、この講義の最後に瀧本さんが聴衆の若者たちに呼びかけた言葉です。
20代半ばぐらいのみなさんだったら、そんなにすさまじくデカいことはできないかもしれないけど、きっと何か自分のテーマを見つけて、世の中をちょっと変えることはできるんじゃないかと僕は思っております。
2020年6月30日にまたここで会おう
なので、2020年6月30日までに、やはり何かやりましょう。僕もそれまでに何かやりますので、みんなで答え合わせをしましょう。
ラスト10ページの熱い呼びかけに、思わず涙が出そうでした。まさか、瀧本さん本人がもうその場に来ることができなくなるとは・・・
でも、星海社新書初代編集長の柿内さんが、約束通り2020年6月30日にみんなで集結しよう、と「あとがきにかえて」で呼びかけています。この講義で何か少しでも感じるものがあったら、ぜひ具体的な行動を起こそう、と。
私はこの講義の対象となるような若者ではないけれど、瀧本さんの熱い思いを感じました。
すごく論理的で、頭の回転が早くて、でも、どんな人のこともバカにしたり見捨てたりはしない方だったんだろうな、と思いました。
もう瀧本さんの新しい本を読んだり講演を聴くことはできないと思うととても残念です。瀧本さんが残してくれた他の著書を読んで、その熱い思いにもっと触れたいと思いました。
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