「脳はもっとも重要な生殖器です」
世界の人口は増加している
2020年5月現在の世界の人口は約77億人です。
これまでの世界人口の推移は、
1800年 10億人
1900年 20億人
1960年 30億人
1974年 40億人
1987年 50億人
1999年 60億人
2011年 70億人
増加のベースはどんどん速くなっています。
1798年政治経済学者トマス・ロバート・マルサスは著書『人口論』のなかで、「幾何級数的に増加する人口と算術級数的に増加する食糧の差により人口過剰、すなわち貧困が発生する。これは必然であり、社会制度の改良では回避され得ない」と暗い予測を述べました。
現実はどうでしょうか。
現在世界人口は70億人を超えていますが、大多数の人々は、マルサスが予測したよりも健康で幸福で長生きしています。
それでは今後もこのペースで世界の人口は増え続けるのでしょうか。
国連人口部が世界人口を予測しています。2019年に発表された世界人口予測によると、2030年までに86億人、2050年には98億人、2100年には112億人となりピークを迎え、その後しばらくして減り始めるだろう、ということです。
一般に、人口の予測はほぼ正確に行える、と言われています。しかし、実際は出生率というパラメータによってこの予測は変動します。
先に紹介したシナリオは、各国ごとに今世紀中の出生率がどう変化するか、最も有力な予測値に基づいて予測する「中位推計」というものです。
この推計よりも出生率を0.5低く見積もった「低位推計」では、世界人口は2050年に85億人で頂点に達し、その後急速に減り始めるということになります。
本書の著者は、この「低位推計」シナリオが実現するのではないかと考えています。そして、それを検討するために、実際に世界各地へ赴き、さまざまな国と地域が自分たちを「人口置換モデル」のどのステージにあると考えているかをまとめたものが本書になります。
人口減少すると何が困るのか
人口が年々減少すると何か困ったことはあるのでしょうか。
人口が増えすぎることによる環境汚染や食糧問題が解決するのでは?
失業者が減って、家賃も下がる?
いやいや、若者の数が減るということは、彼らが高齢者になったときにその医療費や年金を支えるはずの納税者が減ることを意味します。住宅価値が下がる結果、資産も減ります。購買意欲の高い層が減ることで、経済成長が減速します。
そのために、著者らは人口減少社会に警鐘を鳴らしているのです。
都市化と女性の社会進出
出生率が下がる理由として、本書で繰り返し述べられているのが、「都市化と女性の地位向上」です。
欧州では19世紀の産業革命の結果、何百万人もの農民が都市部へ移動しました。この都市化が、子供を資産(重荷を分け合う背中)から負債(食わせるべき口)へと変え、出生率低下を招く圧倒的に大きな原因となりました。
また、都市化は女性に力を与え、より多くの知識と自立性を得た女性たちは自分が産む子供の数を減らすようになりました。
「女性が教育と仕事を得て社会進出すると、すぐさま自分の生む子供の数を減らし、しかも産む時期を先送りするようになる」とある人口統計学者も述べています。
第1ステージ 出生率も死亡率も高い
第2ステージ 出生率は高く死亡率が低い
第3ステージ 出生率も死亡率も低い
第4ステージ 出生率は人口置換率に等しく、死亡率は低い
人口置換といって、人口が維持されるためには、出生率2.1が必要となります。
各地域の現状
このような背景を踏まえ、著者らは世界各地の現状を実際にその地へ行って見てきます。
ヨーロッパ諸国、日本を含むアジア、アメリカ、カナダすべての地域で出生率は低下し、近い将来人口減少へ向かうだろうと著者は述べています。
日本が行おうとしているように、育児に対する手厚い福祉政策を行えば出生率は上がるのでしょうか。
日本より確実に手厚い補助のあるヨーロッパ諸国でも出生率は低下の一途を辿っているところを見ると、そうとも言えなそうです。
日本の現状も詳しく述べられています。日本は他の地域と同じく出生率が低下し、現在は1.4です。
さらに日本の特徴として、「よそ者」になかなか国籍を与えない、ということがあります。
低出生率と移民制限政策が組み合わさった時、日本の将来の人口動態予測は「壊滅的」だと著者は言っています。
また、今の日本を見ると、将来への悲観的な見方も出生率を押し下げる一因となっているのだろうということです。
一方アフリカは唯一、今から今世紀半ばまでの間、生産年齢人口が大幅に増えると見られています。この間、アフリカでは人口と経済の両方が成長するだろうことは誰もが認めるところです。
しかし、これらの国でも都市化と近代化が急速に進み、部族の影響力が弱まり、女性が子供の数を自ら決められるようになると、出生率が急速に低下していくのではないかと著者は見ています。
移民政策の重要性
今後重要となってくるのが移民対策です。日本を始め、アジア各国は移民に対して厳しく、受け入れようとしない傾向があります。
しかし、本来は「経済を守るために移民の受け入れが極めて重要である」と著者は主張します。
最貧国においても賃金が上昇傾向にあり、出生率も下がり、移民になる動機は減っています。今後移民自体が減っていく可能性は高いのです。
それでも、人口減少が目前に迫った国にとって、減少を食い止める当面の最適な方法は移民の受け入れを増やすことだと著者は言っています。
都市化はあらゆる地域で日々進んでいる。南北アメリカ大陸とカリブ諸国は80%が都市化し、ヨーロッパは70%、アジアは50%だ。アフリカはまだ40%だが、急速な都市化が進行中だ。我々が向かっている「都市化した世界」は、平均年齢が高く、あまり子供を持たない人々が、一部の場所に集中して住む世界になるだろう。そうした変化がもっとも急速に起きるのは、これまで移民となる余剰人口を生み出してきた地域であり、そうした地域では貧困も減りつつあることから、遠からず移民に自国に来てもらうのは難しくなるかもしれない。
2050年世界人口大減少
だからこそ少子化に悩む先進国は急いで移民に門戸を解放すべきである。だが実際には扉を閉ざそうとしている、なんと愚かな話だろう。
人口減少した世界とはどんなものか
今年生まれた赤ちゃんが50年後の人口減少時代に目にする光景はどのようなものでしょうか。
意外にも著者の予測は暗いものではなく、今の世界よりも静かで、汚染が少なく、安全な世界だろう、といいます。
そのためには、人々は都市に集中して住み、郊外を緑化すること。公共交通機関や上下水道、電力といったインフラ整備も、人が都市部に集中することで容易になります。二酸化炭素排出量も減るため、人口減少こそ温暖化防止の最適解だと言っています。
しかし、その未来の世界がはたして平和かどうかは、各国の状況によります。
中国の動きは?多産を徳とするイスラム教徒が相対的に増加することの影響は?人口減少によりイノベーションと創造性が衰退するのではないか?
懸念材料はいくつもありますが、このことをみんなが理解し、人口減少時代に備えることで、よりよい世界を作って行こう、ということだと思います。
可能性をあげればきりがない。いずれにせよ、未来は放っておいてもやってくる。我々は自分の道を進むだけだ。高齢者を大事にし、若者をはげまし、すべての人が平等に扱われる社会にしなければならない。移民を歓迎し、彼らと共に暮らしつつ、人々がその社会で暮らしたいと思えるよう自由と寛大さを維持していかなければならない。人口減少時代が必ずしも社会の衰退期になると決まっているわけではない。とはいえ、現在我々に起きつつあること、近い将来に起きることを理解する必要はある。人類が地球に生まれてからこのかた、このような事態に直面したことは一度もないのだ。
2050年世界人口大減少
ちょっと想像してみてほしい。我々人類の数が減っていくのである。
まとめ
2050年以降、世界人口が年々減少していくという「低位推計」に基づいて、そのメカニズムを解説した本でした。
都市化と女性の社会進出によって人口は出生率は世界中で低下していくということ、人口が減少していく世界とはどのようなものか、ということ。
人口減少していく世界は決して絶望的なものではなく、みんなが幸せに暮らしていける可能性も十分にあるという予測。
今こそみんながこれから来る人口減少時代について理解しよう、過渡期はちょっときついかもしれないけど、少ない人数で住みやすいいい世界を作って行こう、ということかなと思いました。
京大こころの未来研究センターの広井良典さんが、同じく人口減少について書かれた『人口減少社会のデザイン』という本があります。
この本では、2050年以降日本が生き残るためのデザインをAIを用いて検討した結果、「都市集中型」ではなく「地方分散型」モデルの方が持続可能性が高いという結果を出しています。そこは本書とは結論がちょっと違うのかなと思いました。
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