私は5歳の時にピアノを習い始め、高校生の時に受験でいったんやめましたが、仕事を始めてからもう一度習いたいと思って26歳で再開。今も細々と続けています。
全然うまくないし、毎年一応参加している発表会で弾く曲も、周りの子供たちはどんどん難しい曲が弾けるようになっているのに、私は年々簡単になっていくという悲しさ。
そんな私ですが、下手でもピアノは好き。弾くのも、聴くのも、そして読むのも好きです。
今回は、読むとピアノが弾きたくなる小説を3冊ご紹介します。
『蜜蜂と遠雷』恩田陸
ピアノの国際コンクールに出場する若者たちのドラマです。
第156回直木賞、第14回本屋大賞受賞作品。
楽器店で働きながら地道にピアノを続けていた高島明石。元天才少女の栄伝亜夜、ジュリアード音楽院在学中の貴公子マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、そして、養蜂業に携わる父について転々と移動しながら暮らし、自宅にピアノすらないけれど、ピアノの大家ホフマンにその才能を見出された風間塵。
ひとつのピアノコンクールの予選から本選、優勝までを追ったストーリーになっています。
それぞれが弾いた演奏曲も全て描かれてあって、私はその曲をSpotifyでプレイリストを作って、聴きながら読んでいました。
先生と話してたんだよ。今の世界は、いろんな音に溢れているけど、音楽は箱の中に閉じ込められている。本当は、昔は世界中が音楽で満ちていたのにって。
『蜜蜂と遠雷』熱狂の日
ああ、分かるわ。自然の中から音楽を聞き取って書きとめていたのに、今は誰も自然の中に音楽を聞かなくなって、自分たちの耳の中に閉じ込めているのね。それが音楽だと思っているのよね。
そう、だから、閉じ込められた音楽を元の場所に返そうって話してたの。どうすればいいのか、先生といろいろ話してたんだけど、どうしたらいいのか僕も先生も分からなかった。先生はもういなくなっちゃったけど、僕はそれを続けていくって約束した。
映画化もされているのですがまだ見ていないので、近いうちに見たいなあと思っているところです。
『羊と鋼の森』宮下奈都
ピアノの調律師さんのお話です。第13回本屋大賞受賞作品。
最初タイトルからは何の話かわからなかったのですが、じつは羊も鋼もピアノの材料です。羊はハンマーのフェルト、鋼は弦。そして、主人公の外村くんが高校の体育館のピアノが調律されるところを偶然見た時に、その音に森の風景が見えたことからこのタイトルが生まれています。
うちのピアノを調律師さんに調律してもらっている時も、いつも本当にすごいなあと感心しながら見ています。ただ音の高さを合わせるだけだったら、チューナーの機械で合わせればいいのだろうけど、それだけじゃ音楽はできないんだろうなと思います。
「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ」
羊と鋼の森
柳さんが静かに言った。
家庭のピアノとコンサートホールのピアノ。どちらも大事だけど、調律する上では考え方が違う。物静かな外村くんの中に芽生えた情熱が眩しい小説でした。
山崎賢人さん主演の映画もよかったです。エンディングテーマの久石譲×辻井伸行さんの曲も。
『パリ左岸のピアノ工房』T.E.カーハート
しまった、これは小説ではなくノンフィクションだったかも。でも、小説のような美しい物語、ということで。
この作品を読むといつも、ああ、ピアノが弾きたいなあ、と思います。
パリに住む著者が、近所にピアノ工房を見つけ、昔習っていたピアノをもう一度習いたいと相談するところから始まります。そこは修理を待つピアノたちが次々に運ばれてくるところでした。個性的なピアノたち。
その中で気に入ったピアノを自宅にお迎えした著者。弾くことを純粋に楽しむ姿に、大人は、うまく弾こうとか一番になろうとかじゃなく、ただ楽しく弾けばいいんだと思えました。
自分ではちょっと立ち寄って、信じがたいほどたくさんのいろいろな中古ピアノを見せてもらって喜んでいるだけだと思っていたが、じつは、わたしはじつに贅沢な夢の世界にーー警戒心をいだく暇もなくーーすでにどっぷりと漬かっていたのである。
「パリ左岸のピアノ工房』リュック
子供の頃ピアノを習っていたけどしばらく弾いてないな、という大人は、この本を読むとまたピアノを触りたくなるんじゃないでしょうか。
新潮クレスト・ブックスのおすすめ本でも以前取り上げました。
まとめ
読むとピアノが弾きたくなる小説3冊をご紹介しました。
弾く人、調律する人、修理する人。
立場はそれぞれですが、共通するのはピアノが好きで、いい音楽を届けたい、という気持ち。
いつも先生に言われていることですが、ピアノという楽器は鍵盤を押せば誰でも音は出せる。でも弾く時にちゃんと頭で考えて、それが指を通して弦を叩くところまでイメージするのとしないのとでは、出てくる音が全然違ってくる不思議な楽器です。
楽しみ方は人それぞれ。これからも楽しくピアノを弾き続けたいなと思いました。
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