女性に医者は無理だと言われ、医学部への入学も許されていなかった明治時代に、医師として働きたいという強い意志を持って勉強に励んだ女性たち。
本書の主人公は明治政府が定めた医事制度のもと誕生した3人目の女性医師、高橋瑞(みず)が主人公です。高橋瑞だけでなく、他の女性医師や、その当時私立大学を創立した人々についても取り上げられていて、その当時の学問の発展が分かる、とても興味深い本でした。
- 女子の医学部入学が認められていなかった時代に、女性だからこそ医師になりたいという強いモチベーションで夢を叶えた女性たちがいた
- 鹿鳴館スタイルで女性の地位向上のための社会活動にも熱心だった荻野吟子と、男性のような服装でひたすら現場で診療を行った高橋瑞
- 結婚出産するとき患者をどうするんだ、という女性医師批判は昔も今も変わらない
3人目の女性医師 高橋瑞
本書の主人公、高橋瑞は、荻野吟子、生澤久野に続く3人目の女性医師です。明治政府は、新しい医事制度をもうけ、女性も医師になれるとしましたが、実際は女性を受け入れてくれる医学校がなかったために実質女性は医師になりたくてもなれませんでした。
そんな中、女性だからこそ医師として働きたい、という強い意志を持って国に働きかけ、男性と同等かそれ以上の努力をして医師になった女性たちがいます。
一人目の荻野吟子は、結婚相手から淋病をうつされ、大学病院で治療をした際に男性医師による診察に非常に抵抗を覚えたこと、同じように男性に診察されるくらいなら受診したくない、と思う女性たちを救うために自分が医師になりたい、と決意します。
一方、二人目の生澤久野は、父親が医師で、男女関係なく教育を与えてくれたおかげで自然と医師を目指すようになりました。
高橋瑞は、病気になった姪っ子が弱って亡くなっていくのを見ているしかできなかったこと、周産期の母子死亡率が高かった時代、科学的な根拠を持たずにお産をとっている産婆さんが多く、知り合いの女性が難産のため目の前で亡くなってしまったという二つの経験から、目の前の命を救いたい、女性が安全に出産できる世の中にしたいと思い、まずは助産師になります。
しかし医師と比べるとできることに限界があると感じ、医師を目指しました。入れる学校を探すのも一苦労でしたが、毎日門の前に立ってアピールし、なんとか入学。猛勉強して医師の試験にも合格し、自分の診療所を開業しました。
すべて順調に見えた生活でしたが、もっともっと勉強したい、という思いと、女だからという理由で警官にバカにされ暴言を吐かれたという経験から、私費でドイツへ留学します。
ベルリン大学も当時は女子は入学できなかったのに、知らずに旅立ってしまったのですが、しつこく何度も頼みに行って、ついに聴講を許されます。すごい熱意です。
誰に対しても平等にチャンスが与えられていなかった時代に、すごいモチベーションを持って夢を叶えようとした人たちがいた、ということ。
果たして自分はそこまでのモチベーションを持てているか、思わず考え込んでしまいました。
日本の女性医師の育ての親
東京女子医科大学の創設者、吉岡彌生は自伝の中でこう語っています。
「荻野さんが日本の女医の生みの親だとすれば、育ての親に当たるのが、三番目の女医になった高橋瑞子さんであります」
直談判の末の入学
高橋瑞以前の二人は、医学校に何らかのつてがあって入学を許されました。それに比べて全く何のつてもなく、ただひたすら「医術開業試験が女子に解放されたのだから、医学校も女子を受け入れるべきだ」という正しい主張を何度も繰り返して、入学が認められた第1号が高橋瑞でした。
女性が医師として働くということ
彼女たちの活躍によって、徐々に女性医師が増えていきます。しかし、女性医師が増えるにつれて、「女医亡国論」つまり女医批判も聞かれるようになっていきます。発端は、新聞に掲載された匿名の投稿「本邦の女医」というものです。
この「本邦の女医」には、「女医には3つの問題点がある」、と書かれています。
- 妊娠出産によって診療ができない期間、患者をどうするのか
- 解剖学的・生理学的特徴から、果たして女性に医学を修める資格があるのか
- 下宿などで男子生徒と寝食をともにすることの性的放縦
これって、③はともかく、他の2点は今の女性医師批判とあまり変わらないですよね・・・そのことに私はガックリきました。
確かに、女性である以上体調面や妊娠出産など、男性とすべて同じように働くことは難しいかもしれません。予定通りに行かないことも男性より多いかもしれません。
だけどそれは、女性が医師と言う仕事に就くことを許されない理由にはならないと私は思います。しかし、明治時代から女性に対する社会の批判はずーっと変わらないんだな、と・・・
まとめ
女性医師の草分けとして、東京女子医大の創設者、吉岡彌生のことは知っていましたが、それより前にこれほどの熱意を持って医師になった女性がいたということを初めて知りました。
自分はどうして医者になりたいと思ったのか。受験生だった頃の自分に恥じない働き方が今できているか。など、自分の日々の仕事についても考えさせられた本でした。
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