最近歴史の本、とくにギリシア・ローマ時代の本をよく読んでいます。
これは以前読んだ『教養としての「世界史」の読み方』の著者で、早稲田大学教授の本村凌二さんが書かれた本です。本村さんはローマ史が専門なので、この本はまさに専門分野について書かれた本になります。
ローマ帝国の興亡
ローマ帝国の神話的な成り立ちから、カエサルから五賢帝へ続く最盛期、そして、東西に分裂して滅亡していくまでが描かれています。
丸山眞男は「ローマ帝国の歴史には人類の経験のすべてがつまっている」と語っています。それほど、ローマ帝国の1200年の歴史というのは重いものなんだと思いました。
『教養としての・・』でも著者は言っていますが、ローマ帝国は江戸時代の日本と似たところがあります。また、ローマ帝国が迷走していた軍人皇帝時代は、日本の戦国時代とも共通点がありそうです。過去から現在への縦の時間軸だけでなく、違う国や地域同士での横の共通点を考えるのも面白い歴史の読み方だと思いました。
スキピオの活躍、その後に現れたカエサル(塩野七生さんの『ローマ人の物語』を読むときっとカエサルのファンになります!)、オクタウィアヌス、ティベリウス。そして、五賢帝と呼ばれるネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスが統治した、平和と繁栄の時代。これがローマ帝国の絶頂期でした。
ということはこの後衰退期がきます。なんと半世紀で70人もの皇帝が次々と入れ替わり統治する時代。この軍人皇帝時代は「3世紀の危機」とも呼ばれています。市民はきっと今誰が皇帝なのかも分かっていなかったことでしょう。
一神教への大転換
そんな時代でも、いくつかの大事な転換期をもたらした皇帝たちがいます。この頃ローマにも浸透してきたキリスト教の扱い方についての大転換です。
キリスト教を公認したコンスタンティヌス帝。世に名高い「ミラノ勅令」です。キリスト教の普及は、人々がただ別の宗教に鞍替えしたというだけの出来事ではなく、多神教世界が一神教世界に転換するという人類史上の大事件なのです。
なぜこの時代にキリスト教が台頭してきたかについての考察が興味深かったです。
まとめておくと、十字架刑上で主が犠牲になるという物語の理解しやすさ、抑圧された人々の怨念、および心の豊かさを求める禁欲意識、の三つである。これらが相まって、混乱と不安の時代にキリスト教が広く人々の魂をゆさぶったのである。
第9章 一神教世界への大転換
この時代背景はまさに、日本の戦国時代でキリスト教が密かに広まり、キリシタン大名などが出てきたころの状況と重なります。社会の中に不安や閉塞感が蔓延してくると、救済を求めたくなるのは当然の流れのようです。
コンスタンティヌスはまた、ローマ帝国の都をビザンティオンに遷都しました。これはつまり、帝国の重心を東にずらすということです。そして、広範囲で通商を可能にするために、貨幣を統一しました。
さらにテオドシウス帝は、392年にローマ帝国の国教をキリスト教とし、その他の神々の異教祭儀を禁止してしまいます。
帝国の東西分裂
テオドシウス帝の死後、ローマ帝国は二人の息子に分割継承されます。東西に分かれた帝国は再び統一されることはありませんでした。東ローマ帝国はビザンツ帝国として生き残っていきますが、西の帝国はこのまま衰亡してしまいます。
著者はこの滅亡を人間の死に例えています。そして、そのパターンには二通りあると。
一つはキリスト教の普及により優秀な人材が教会に吸収され、それとともに国には優秀な人材が集まらなくなっていく、そのことが癌のように健康な細胞が蝕まれてゆっくり死に至ったというパターン。
そしてもう一つは、東西分裂により左右のバランスが取れなくなり、そのストレスによって動脈硬化が起こり、脳卒中からの半身不随になったというパターンです。ひとつの国の興亡を人間の一生になぞらえるのはおもしろい考え方だなと思いました。
最後に著者個人の考え方として、以下のように述べており、私はそれがとてもしっくりきました。
確かに、事態の一側面に注目すれば、われわれはそれなりの衰退のシナリオを描くことができる。しかし、ローマ世界あるいは古典古代文明というものを全体として考えるならば、それは天寿をまっとうしたと考えていいのではないだろうか。あるいは、老衰したと診断してもいいのではないか、と筆者個人は考えている。文明にも生老病死があり、古代地中海世界はいわば自然死の状態であったように思われる。
第10章 文明の変貌と帝国の終焉
まとめ
塩野七生さんの『ローマ人の物語』全部を1冊にまとめたような、とてもテンポの良い本でした。ローマ皇帝は個性的な人が次々と現れるなあ。遊び好きな人、真面目な聖人君子、マッチョな軍人。この人材の多さがやはりローマ帝国が1200年も続いた要因だったのかなと感じました。
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