私たちは、職場でも家庭でも、誰かに何かを頼む機会は毎日のようにあります。ひとりでできることには限界があり、自然に仲間に助けを求めること、仲間を手伝うことは重要なスキルです。
一方、人に何かを頼むときには、どうしても気が引けて、頼みづらいなあということもよくあります。
この本では、
- なぜ人は誰かに何かを頼むのを気まずく感じるのか
- 人に上手に助けを求める方法
- 人を動かす3つの力(仲間意識、自尊心、有効性)
の順番で、「人に頼む」ということについて考えていきます。
著者のハイディ・グラントはコロンビア大学で教鞭をとる社会心理学者で、『やってのける』『やり抜く人の9つの習慣』などの著書があります。
人に何かを頼むのは決して恥ずかしいことではない、人は自分が思っているより快く引き受けてくれるもの。ただ、そのためには上手に気持ちよく手助けしてもらえるように工夫するといいよね、ということが書かれていました。
人に頼むのが気まずいのはなぜか
脳が感じる5つの痛み
人間は、親に全面的に依存して育ててもらわなければならない乳児期が他の哺乳類よりも長い、ということからも、他者と力を合わせて集団として生きていかなければならない存在です。そのため、集団からはぐれかけている、ということは生命の危機となるので、社会的な苦痛を感じるのも必然的だと著者は言います。
その社会的苦痛を生じさせる脅威は、以下の5つに分類されます。
- ステータスへの脅威:集団の中で自分に価値や重要性を保ちたい
- 確実性への脅威:未来を予測したい
- 自律性への脅威:物事をコントロールしたい
- 関係性への脅威:集団への帰属意識や他者とのつながり
- 公平性への脅威:公平に扱われたい
人に頼み事をする時には、以上の5つ全てを体験する可能性があるのです。
すなわち、人に頼み事ををする時、自分の知識や能力の不足を意味するのではと不安に思い無意識にステータスが下がると感じる。相手がどう答えるか分からないので確実性の感覚も下がる。相手の判断に委ねることになるので自律性の感覚も低下する。相手に断られると拒絶されたように感じるため関係性への脅威も生じる。相手に断られるともちろん公平性も感じない、ということです。
相手は自分が思っている以上に助けてくれる
実験によると、人は誰かに頼み事をする時、それが成功する確率を実際よりも半分ほど低く見積もっているそうです。つまり、人は思っているよりも2倍多く、誰かを助けたいと思っている、ということです。そう考えると、頼み事をするハードルも下がるかもしれません。
スティーブ・ジョブズは次のように語っています。
僕は日常的に、助けを求めれば人はそれに応えてくれる、ということを実感している。この真実に気付いている人は少ない。なぜなら、めったに誰かに助けを求めようとしないからだ。誰かに何かをお願いしても、それを無下に断られることなんてめったにない。(中略)僕が頼み事をした時に、「嫌だね」と言って電話を切る人はいなかった。その相手から同じように頼み事をされれば、僕も力を貸す。相手に恩義を返したいと思うからだ。でも、電話をかけて誰かに助けを求めようとする人は少ない。それが、何かを成し遂げる人と、夢を見るだけで終わる人との差になることもあるのではないかと思う。
第2章 なぜ、”頼んでも断られるだろう”と思うのか
一度断られた相手は次に頼むと意外に引き受けてくれる
頼み事をして、一度断られると、次もう一度その人に頼み事をするのはかなり気まずくなります。でも、実験によると、一度断った人は、次にまた頼み事をされると受けてくれる確率が上がるそうです。
一度断っているという罪悪感か、それとも、また言い訳を作って断ることが面倒なのか。
どちらにしても、一度断られたからと言って二度と頼まない、というのはもったいないことのようです。
人に上手に助けを求める方法
「自発的に助ける」と思わせるのがカギ
人は、外的なプレッシャーをかけられて行動することにはストレスを感じます。頼み事に関してもそうで、自分がそうすることを決めた、と思わせて積極的に手伝ってもらう方向に持っていくほうが、相手も気持ちよく手伝うことができる、と著者は書いています。
助けなければならない、よりも、助けたい、という自発的な気持ちを生じさせてことがポイントです。
そのテクニックの例として挙げられているのが、「ちょっとお願いできますか?」から入る、自分に借りがあると思わせる(得たものと同じものを返す、という心理:返報性を利用する)などですが、うまく使わないと逆効果にもなるので注意が必要です。
助けを得るための4つのステップ
周りは自分が思っているより、この人は助けを必要としている、と気付いてくれないものです。それにうまく気付いてもらえるような4つのステップが紹介されています。
- 相手に気づかせる
- 助けを求めていると相手に確信させる
- 助ける側は責任を負わなければならない
- 助ける人が、必要な助けを提供できる状態でなければならない
人を動かす3つの力
「仲間意識」を活用する
集団の一員であるということは、私たちのアイデンティティにとって重要な要素です。なので、その集団意識、仲間意識を刺激するとお願いを聞いてもらいやすくなります。「一緒に」を強調するとか、共通の目標を持ち出す、など。まずは共通の感情や経験を探すことから始めると良いそうです。
「自尊心」を刺激する
自尊心を刺激することも、人を動かすのに重要です。助けを求める時には、相手をよく理解し、そのアイデンティティを肯定的なものにするようなポイントを強調することが大切です。また、何人にも頼むのではなく、その人だけに頼むことも、相手の自尊心をくすぐります。(なんか、あくどい感じもしますが・・・)
「有効性」を感じさせる
有効性とは、助けることで効果があったという手応えのことです。人は、自分の行動が現実世界に影響を及ぼしているという手応えを感じるからこそ、それを続けているのです。これは大きなモチベーションになります。
そのためには、求めている助けがどんなもので、それがどんな結果をもたらすかを事前に明確に伝えることが有効です。
まとめ
人はなぜ頼み事をする時に気がひけるのか、思っているより人は助けてくれるもの、どんなふうに頼めば相手が気分良く助けてくれるのか、について書かれた本でした。
アメリカと日本で考え方が多少違うところもあるのかな、という気もしました。
少なくとも私は、誰かにちょっと難しそうな頼み事をする時には、「断られたらどうしよう」というよりは、「相手は面倒だなと思ってもたぶん断りにくくてやってくれるだろうな、それも申し訳ないし気まずいな」というふうに考える気がします。
でも、この本に書かれているように、頼まれた方は案外気軽にいいよ、と受けてくれるのかもしれないし、スティーブ・ジョブズが言っているように、今回助けてくれたから、今度その人から頼まれたら絶対助けになってあげよう、と考えると思います。
そうやってお互いに頼んで、助け合って、社会が回っていくのかなと思いました。
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