「米中新冷戦」と言われる今の時代。科学技術分野では米国と中国が世界のツートップとなっています。
2019年ワシントンのシンクタンク「情報技術イノベーション財団(ITIF)」が発表した報告書によると、研究開発費、研究人材など36の指標について米国と中国を比較した結果、国際特許の出願数では米国の80.9%に迫り、ハイテク輸出ではすでに米国の2倍以上となっているとのことです。
2000年代に中国が驚異的な経済発展を遂げたことは誰もが認めるところですが、まだまだ米国までの差は大きいと米国内では思われていました。しかし現実にはその差はずっと小さいようです。
本書では、米国を脅かすまでに成長した中国の科学技術力についてまとめられています。
宇宙開発、原子力発電、米国から事実上禁輸措置を取られたファーウェイ、デジタル技術、そして最後に、科学技術立国としての米中の世界での立ち位置について。
それぞれの視点から米国と中国が対比されています。
中国IT企業「BATH」
特に興味深かったのは、「第4章 理想社会と管理社会のはざまで 中国のデジタル技術最新事情」です。
BATHと呼ばれる、中国のIT企業の急速な成長と、それに対抗しようとする米国の姿が描かれています。
BATHは検索エンジンの「バイドゥ(Baidu)」、ネット通販の「アリババ(Alibaba)」、SNSの「テンセント(Tencent)」、通信機器メーカー「ファーウェイ(Huawei)」の頭文字を取ったものです。これらの企業の発展とともに、中国はデジタル技術によるイノベーションがもたらされ、モバイル決済、シェアリングエコノミーが急速に浸透してきています。
以前読んだ『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(田中道昭)には、Google×Baidu、Amazon×Alibaba、Facebook×Tencent、Apple×Huaweiという米中の企業がそれぞれ比較されています。
また、中国で人々の生活に浸透しているものに「信用スコア」というものがあります。これはいわば人間の格付けシステムのようなもので、SNSでの発信履歴、ルール違反や犯罪歴などをもとにポイントが決められます。ポイントが高いと融資やデポジットで優遇されますが、ポイントが低いと鉄道や航空券のチケットすら買えないそうです。
中国では、情報は国のもの、という感覚が昔からあるため、情報を提供することに対する抵抗が国民にそれほどないのだろうと思われます。
国家に常に監視されているようで、日本でこれはなかなか浸透しないのではないでしょうか。。。逆に言うとこの情報集約が中国の強みでもあるのでしょうが。
科学技術分野での中国の台頭
また、科学技術分野においても、中国は米国に迫る勢いを見せています。
全米科学財団(NSF)の「科学・工学指標」によると、2018年、論文数で中国が米国を抜き、初めて世界のトップに立ったとのことです。ちなみに日本は2003年まで世界2位でしたが2016年には6位に転落しています。
被引用論文上位1%に入る研究者の内訳を見ても、トップの米国に次いで中国が2位だそうです。ちなみに日本は11位・・・
科学技術大国と思っていた日本はあっさり中国に抜かれており、今や中国は世界トップの米国に迫る勢いです。
ファーウェイをEntity List(EL)に載せて事実上禁輸措置を行ったのは、それだけ米国が中国を脅威と感じているということではないでしょうか。
日本がこれ以上遅れを取らないためには、基礎研究の立て直しと、若手研究者の給料を確保した上での育成が必須です。
『誰が科学を殺すのか』(毎日新聞「幻の科学技術立国」取材班)にも、このあたりのことが詳しく書かれていました。
「選択と集中」という言葉で表されるように、成果が見込めそうな特定分野にトップダウンで資金を重点的に配分しようとするだけでは、基礎研究の発展はなかなか期待できないのではないかと思います。
すぐには役に立ちそうにないことに、資金を投入できるのは最終的には国だけなのではないかとも思います。
まとめ
日本にとって米国は同盟国であり、中国は大事なパートナーです。この「米中新冷戦」の中で日本はどうふるまうべきか。それを考える上で参考になる一冊でした。
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