「本当の親子っていうのは、血縁ではなく、愛情で結ばれた関係」
「どうせ同じ違法行為をするなら、赤ん坊の命を助けるためにすべきでねえのが」
特別養子縁組とは
「特別養子縁組」とは、未成年、貧困、未婚など、いろいろな事情のために、実親が赤ちゃんを育てられない場合に、赤ちゃんと実親との法的な親子関係を解消し、養親との間に実の親子と同じ親子関係を結ぶ制度です。
普通養子縁組と違って、実親との親族関係を終了し、戸籍の記載が通常の親子関係とほぼ同じになるため、成立要件が普通養子縁組よりも厳しくなっています。
たとえば特普通養子縁組では実親と養親との間の同意で成立するのに対し、特別養子縁組では、6か月の観察期間をおいた後に家庭裁判所の決定により成立します。
また、特別養子縁組ができる子供は原則15歳までで、関係の解消は認められません。
平成25年以降、件数が大きく増えてきているそうです。
普通養子縁組と特別養子縁組について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000169448_1.pdf
戸籍を見ても養親の実の親子と同じである特別養子縁組制度は、育てられない実親と、赤ちゃんが欲しいけど授からない養親とをつなぎ、赤ちゃんが幸せに暮らせるための制度だと思います。
でも、この特別養子縁組制度が成立するまでに、宮城で一人の産婦人科医が奮闘したという事実を私は知りませんでした。
その医師・菊田昇の生涯を描いたのが本書です。
著者は、子供や女性の貧困、虐待など、多くのルポを書かれている石井光太さんです。石井さんの本は、弱い立場の子供や女性への温かい視線を感じるので大好きです。
石巻の医師・菊田昇
石巻市の遊郭を経営する母のもとで育った菊田昇。遊女が体を張って稼いだお金で食べ、学校へ通いました。遊女の中には、客との間で妊娠してしまい、生むこともできず病院で堕胎するお金もないため、ヤミで堕胎するしかないケースも多く、危険な処置で命を落とす遊女もいました。
菊田は、そんな女性たちの命を救いたくて医者になります。そして、初めてみんなに祝福されるお産を見て、産婦人科医として昼夜を問わず患者さんのためにお産を取ります。
しかし、産婦人科医は分娩だけでなく、事情がある場合の人工妊娠中絶も行います。現在は妊娠22週未満までですが、当時は妊娠7か月まで堕胎が可能だったようです。
また当時は、法律の範囲を超えた妊娠8か月であっても、頼まれれば堕胎を行っていた産院が多かったそうです。
7か月や8か月で堕胎した赤ちゃんは、しばらくか弱い泣き声をあげる場合があり、菊田はそんな赤ちゃんの命を自らの手で奪う行為にものすごい罪悪感を感じます。
赤ちゃんの命を奪うくらいなら、実親に赤ちゃんを産んでもらい、赤ちゃんを欲しいと思っている夫婦に育ててもらったほうがいい。
しかし、事情があって育てられない実親は、出産したことが戸籍に残ることを嫌がります。そこで、菊田は違法だとわかっていても、偽の出生届を作成して、新しい両親のもとへ赤ちゃんを斡旋することを始めます。
昇は中絶を望む女性と、不妊症の夫婦をつなぎ合わせることで、赤ん坊の命を助けられないかと考えはじめるようになった。それができれば、実母の戸籍を汚すことなく、別の夫婦のもとで赤ん坊は幸せに生きていくことができる。
赤ちゃんをわが子として育てる方を求む
『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』というタイトルは、菊田医師が養親を探すために新聞に出した広告から取られています。
菊田が行ったことは明らかに法律違反であり、医師としてはやってはいけないことです。でも、何の罪もない赤ちゃんの命を奪うよりは、生きて新しい両親に育ててもらったほうが赤ちゃんのためであることは間違いない。
菊田は、堕胎可能な週数を制限すること、特別養子縁組制度を作ることを社会に訴えます。
今後同じような問題が起こるのを防ぐ方法として大きく二つのことを提案した。一つ目は、8か月未満まで認められている人工妊娠中絶を7か月未満に制限することで、手術の際に赤ん坊が早産で生まれないようにすること。二つ目は、母親の戸籍に残らない形で養子に出せる特例法を設置することだ。
赤ちゃんをわが子として育てる方を求む
当時合法に行っていた中絶手術を殺人のように言われた他の産婦人科医や学会からは猛反発を受けますが、世間からの賛同を得て、法整備が進むこととなります。
まとめ
ひとりの医師の正義を発端として、今の制度があるということを初めて知りました。教えてくださった著者に感謝しています。
石井光太さんの『漂流児童』という本にも、NPO法人「Babyぽけっと」という特別養子縁組を仲介する団体が紹介されています。他にも、子供に関するいろいろな問題が取り上げられており、子供に関わる全ての人に読んでもらいたい本です。
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