【レビュー】『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

2019年本屋大賞受賞作品。

出版されてすぐに読みましたが、映画化されるということで再度読み直しました。

主人公の高校生・優子は、母親が一度、父親が二度変わっていて、今ではまったく血のつながりのない「森宮さん」と二人暮らし。

普通ならしなくてもいい苦労をたくさんしてきて、裏切られたり、がっかりしたり、寂しい思いをしてきたけど、駄々をこねたり拒否したりしないで静かに受け入れてきた優子。そんな経験のために、友達との距離を無意識に取りがちになってしまうのも当然ですよね。

普通に考えたら、「複雑な家庭」「かわいそう」と思われるのが当たり前のような境遇です。ですが、優子は「何か困っていることない?」と聞かれることに逆に困ってしまいます。

私は病院で働く小児科医のため、どちらかというとこういう子を見ると「困ってない?」と聞く側の人間だと思うのですが、そう聞かれた本人はむしろその言葉に困ってしまう、ということは覚えておかないといけないなと思いました。

また、大人たちが別れたり新しいパートナーと一緒に暮らしたりすることを決めた時、優子にどうしたいか決めさせていましたが、それはやっぱり酷だと思います。大人だったとしても、自分の選択が正しかったかなんて自信が持てない。そんな大事なことを子供に決めさせるのは可哀想すぎます。

何がいいのか、どうしたいのか、考えたらおかしくなりそうだった。私の家族ってなんなのだろう。そんなことに目を向けたら、自分の中の何かが壊れてしまいそうだった。どうでもいい。どこで暮らそうが誰と暮らそうが一緒だ。そう投げやりにならないと、生きていけない。そう思った。

そして、バトンは渡された

高校生の優子は、「いろんな経験をしてきた強い子」。でも、小さいころは寂しい思いも当然していて、だからこそ今の自分がある、と分析します。

私は不幸ではない。梨花さんとの生活だって楽しい。けれど、どうしたって寂しいし、お父さんが恋しい。そんな気持ちが簡単に消化できるわけがなかった。

そして、バトンは渡された

今の森宮さんとの生活の描写の間に挟まれる、過去の回想。そこで少しずつ優子の生い立ちや、辛かったこと、楽しかったことなど、今の優子を形作ってきたできごとが描写されます。この構成がすごくいいなと思いました。

散々悪口を言って盛り上がる二人に、お父さんたちが気の毒になった。そして、それ以上に、これだけ陰口を叩いても共に暮らせるのだと、血のつながりの深さを思い知らされた気がした。

そして、バトンは渡された

家族って何?血の繋がりってどれくらい大事?

子供には家族を選ぶ権利はない

だけど優子のように親を選ばされるのだってつらい。

そんなことをずっと考えながら読みました。

そして最後に思ったのは、優子はとてもたくさんの人間に愛されているということ。

ラストにかけて、全員のお父さんお母さんに会いに行く場面は感動でした。

優子は本当にみんなから、大切な宝物のように、大事なバトンとして引き継がれてきたんだなあと感じました。

そんな優子は、これからどんな家族を作っていくのか、楽しみですね。

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