宇宙に行って帰ってきた宇宙飛行士たちに立花隆がインタビューした、1985年出版の本です。
宇宙に行くとやっぱり考え方変わるのかな?
自分がこれまでずっといた地球を外から眺めるって強烈な体験なんだろうね。
宇宙に行くということ
それまで、宇宙に行くという数少ない経験をした人たちに、それがどんな体験だったのか、その経験が人生にどんな影響を与えたのか、心理的精神的側面からインタビューした人はいませんでした。その意味でも現代まで読み継がれる貴重な一冊です。
彼らの多くは、宇宙へ行くという体験は、それまでの人生が180度変わるような大きなものだったと答えています。中にはスピリチュアルな方向へ進む人もいました。一方、全く変わらなかった、という人もいました。
宇宙空間で人は生きることはできません。そのため、宇宙船や宇宙服という形で「地球環境を持って行く」のです。宇宙船の壁に穴が開いたら、または、宇宙服が破れたら、それは死を意味します。
また、宇宙空間では、上下、縦横、高低の区別がありません。また、私たちの時間の感覚は全て地球時間。地球から見た天体の運行を基準に決められています。ということは、宇宙での時間の進み方は地球上とは全く異なるので、時間の概念も崩れることになります。
そのようなことも、今まで当たり前に思っていた前提が全てひっくり返されるような感覚を生み出しているのではないでしょうか。
争うことの愚かさ
今まで当たり前に思っていたことが大きく覆される体験。多くの宇宙飛行士に共通するのは、地球の中で国同士争うことのバカバカしさでした。
宇宙飛行士たちが異口同音に述べたことは、地球の上で、国家と国家が対立しあったり、紛争を起こしたり、ついには戦争までして互いに殺し合ったりすることが、宇宙から見ると、いかにバカげたことかよくわかるということだった。
政治とビジネス 第2章
「眼下に地球を見ているとね、いま現に、このどこかで人間と人間が領土や、イデオロギーのために血を流し合っているというのが、ほんとに信じられないくらいバカげていると思えてくる。いや、ほんとにバカげている。声をたてて笑い出したくなるほどそれはバカなことなんだ」
神との邂逅
宇宙に行って帰ってきてからNASAをやめて伝道師になったジム・アーウィン。彼は立花隆のインタビューにこう答えています。
地球の美しさは、そこに、そこだけに生命があることからくるのだろう。自分がここに生きている。はるかなかなたに地球がポツンと生きている。他にはどこにも生命がない。自分の生命と地球の生命が細い一本の糸でつながれていて、それはいつ切れてしまうかしれない。どちらも弱い弱い存在だ。かくも無力で弱い存在が宇宙の中で生きているということ。これこそ神の恩寵だということがなんの説明もなしに実感できるのだ。
神との対話 第3章
宗教と科学についての宇宙飛行士たちの考え方も興味深かったです。以前レビューした『科学者はなぜ神を信じるのか』にも、科学者が宗教とどう折り合いをつけているのかが詳しく書かれています。
宇宙飛行士の多くは、アーウィンと同じように、宇宙体験について語ることは宇宙飛行士だった人間の責務だと考え、快くインタビューに答えてくれました。しかし、一人だけ、積極的な理由で「話したくない」といった人がいました。アポロ11号に乗り月面着陸を成し遂げて地球に帰還し、その後精神科の病院に入ることになったバズ・オルドリンです。彼は、国民的英雄という新しい役割にうまく適応できなかったのだろう、と著者は考察しています。
環境問題
また、アポロ7号に搭乗したウォーリー・シラーは、宇宙空間から地球の環境汚染を目視したことで、帰還後、環境問題に取り組むビジネスを始めました。
「自然の中に生きていると心がなごむ。この地球の自然なしには人間は生きていけない。というより人間も地球の自然の一部なのだ。地球を離れては、人間は呼吸することすらできない。宇宙人が地球にやってきたらエイリアンだが、宇宙における地球人もまたエイリアンなのだよ。地球以外にいきどころがないのが地球人だ」
政治とビジネス 第3章
まとめ
帰還した宇宙飛行士たちに、心理的精神的な側面についてインタビューした一冊でした。立花隆は、彼らにインタビューしながら、自分も宇宙体験がしたいと強く思ったそうです。作家さんが宇宙体験をしたらどんなふうにそれを記録してくれるのか、私も読んでみたいと思いました。
民間会社がスペースシャトルを飛ばす時代になってきています。宇宙旅行も近い未来の話になるのかもしれません。飛行機に乗ることすら怖い私には宇宙なんて絶対無理ですが、芸術家とか作家の人たちにぜひ行ってもらって、新たな宇宙体験を聞かせてもらいたいなあと思いました。
同じ宇宙関連の記事で、NASAのJPL(ジェット推進研究所)で働く日本人研究者、小野雅裕さんが書かれた『宇宙を目指して海を渡る』のレビューです。
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