【レビュー】未知のウイルス感染症との戦い『エピデミック』川端裕人

エピデミックとは、「一定の地域または対象人口において、ある疾患が、継続的(慢性的)に発生している状況」のこと。これが地域や国を超えて世界中で大規模に流行するようになるとパンデミックとなります。

一定の地域にとどまっている場合はエピデミック、地域を超えて世界中で同時に流行するとパンデミックと言うんだね。

関東近郊のある地区で突如発生した謎の呼吸器感染症。流行を阻止するために戦う疫学の専門家たちを描いた小説です。2007年に書かれた作品だというのが信じられない。2020年の今の状況をヒントに書かれたのかと思うくらいリアルです。

2007年の作品なんだ。今の状況をヒントに書かれたのかと思ったよ。

目次

疫学者の動きがリアル

この小説では、感染症流行対策のプロフェッショナルとして、国立集団感染予防管理センター(NCOC)の実地疫学隊(FET:フィールドエピデミオロジーチーム)が現地に入り、感染症の広がり方を調査し、さらなる拡大を防ごうと活躍します。

大事なのは「時間・場所・人」。発生した場所や日付、人の特徴をデータ化し、共通点を見つけようとします。

疫学者の成功とは、感染症を未然に防ぐこと。それが達成できたら、感染症が起きないので誰からも評価されない。感染症が広がったら失敗と言われるだけ。

わたしたちにとって、成功とは評価されないこと、なんです。感染を未然にふせいだら、誰も病気にはならないのですから。だから、今回のように、院内感染が起きてからいくらがんばっても完全な成功にはなりません。

第一部 初動調査

感染源を特定してそれ以上広がらないように感染経路を立つことを「元栓を締める」と表現しています。

「わたしたちの仕事は、元栓をひねって感染源を断つこと。病原体の探究は、また別の人たちの役割。原点に戻って、やることをやらなきゃ」

第二部 アウトブレイク

感染者への差別、医療従事者への院内感染、R0(基本再生産数)や交絡因子、パニックを煽るマスコミなどなど、今まさによく目にするようなことがかなりリアルに書かれています。それもそのはず、今回の新型コロナウイルス感染症の対策班で中心的な活躍をされている西浦博先生に草稿をチェックしてもらったと謝辞に書いてありました。

ファンタジーの風味もあり

基本的には、すごく科学的な知識に基づいた小説ですが、一部不思議な子供たちの集団が出てきてファンタジー的な雰囲気もありました。このままファンタジーに進んでいったらどうしようかと思いましたが、最後にはちゃんと科学的な結論が示されたのでよかったです。

作者の科学に対する考えが以下のように書かれています。

そうか、仮説を立てたら、検証して、もしも間違っていた場合は、仮説を捨てる覚悟があるかどうか。それが科学の営みのひとつの特徴だと気づく。それこそ、棋理が言うように、あり得る仮説の間の確率密度の雲の中に踏み留まって、ぎりぎりまですべての仮説にオープンである態度。人間は自分の説には固執してしまいがちだから、このことは常に念頭に置いておかなければならない。

第三部 疫学探偵

まとめ

10年以上前に書かれた作品とは思えないほど、今読むとリアルで、その世界に入り込んで読みました。

物語の舞台になっているT市は、C県の県南にありポピーなど花が年中咲いている。隣接するKG市には有名なシーワールドがあり、同じ県内のN市には国際空港がある・・・アルファベットにする意味ある?と、読みながら気になってしょうがなかったです(苦笑)。

でも、今読むといろいろな意味で興味深い小説でした。

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