【レビュー】犯罪心理学入門『悪いヤツらは何を考えているのか』桐生正幸

何人もの被害者が出るような凶悪犯罪だけでなく、ひったくりや万引き、痴漢など、身近なところにも犯罪は潜んでいます。

犯罪というのは決して遠いどこかで起こっているのではありません。犯罪者は自分たちと全く別の生物というわけでもありません。

なぜ犯罪は起こるのか、犯罪者の心理を知ることで防犯につなげたい、という思いでこの本を読みました。著者は、東洋大学教授で、山形県警の科学捜査研究所で主任研究官として犯罪プロファイリングに携わっていたこともある、犯罪対策のスペシャリストです。

目次

犯罪はなぜ起きるのか

犯罪とは

犯罪というのは、法律で決められたものです。「道徳的に良くないこと」ではなく、「法律で違法と決められていること」のことです。犯罪を定めた法律には、刑法のほか、覚せい剤取締法や銃刀法、売春防止法などの特別刑法があります。

犯罪構成要件

犯罪はどのような条件のもとで起きるのでしょうか。最近の犯罪学では、犯罪は加害者さえいれば起こるのではなく、犯罪者犯罪対象と出会うこと、そしてさらに、第三者である監視者という要素も重要と考えられています。

日常活動理論

犯罪学者のマーカス・フェルソンは、犯罪は人的要因だけでなく、いつ起きたのか(時間)、どこで起きたのか(場所)も重要なポイントとなる、という「日常活動理論」を提唱しました。

犯罪=(犯罪者+対象ー監視者)(場所+時間)

動機のある「犯罪者」が「適当な標的」と出会い、その時に「有能な監視者がいない」場合に犯罪は起こります。つまり、犯罪は決して特殊な状況下ではなく、日常生活の中で起こりうる、ということです。

合理的選択理論

犯罪学者のデルク・コーニッシュとロナルド・クラークは、犯罪学に「合理的選択理論」を応用しました。これは、犯罪者は犯罪を起こしたときの利益や報酬と、失敗したときのリスクやコストを天秤にかけて、犯罪の場所や方法を合理的に決める、というものです。

犯罪を犯すにはリスクが高い、と思わせることが抑止力になりうる、ということでしょうか。ただし、犯罪者にとって、リスクを全部吹っ飛ばすほどの報酬があるときには、不合理と思われるような犯罪を犯すことも考えられます。

犯罪者は何を考えているのか

では、犯罪者は何を考えているのか。歴史上有名な国内外の重大犯罪の例がたくさん挙げられています。本文にも何回か「気分が悪くなるかもしれないので読むのは無理しないで」と書かれているように、決して気分の良いものではありませんでした。犯罪者にも犯罪者なりの理由があるのかもしれませんが、やっぱり私には理解できない。

でもまあ理解できない、と言っていても進まないので、本書から得られることがあるとしたら、重大犯罪がどのように起きたかを知ることで、世の中には自分には理解できないことで強い怒りや屈辱を感じる人がいる、と知っておく、ということかなと思いました。

また、もっと身近な例として、カルト集団のマインドコントロールや、振り込め詐欺など特殊詐欺のテクニックも説明されていて、興味深かったです。

家庭内で起きる犯罪

家庭内で起こる犯罪として、児童虐待、家庭内暴力、ドメスティックバイオレンスが取り上げられていました。

児童虐待の要因は一つではなく、ダメな親だ、と非難するだけでは解決になりません。まずは親子が地域で孤立しないように、各所が協力して未然に防ぐことが大事なんだろうと思いました。

また、DVサイクルについての説明も興味深かったです。

緊張形成期(ピリピリした空気)→爆発期(抑制できない暴力)→ハネムーン期(謝罪、反省)

を繰り返すことで、被害者に「本当は愛されているんだ」「暴力を振るわせてしまった私も悪かった」と思わせて、支配・被支配の関係が強化されていく、そうです。まずなんとか物理的に距離をとって、冷静になることが大事なのかなと思いました。

防犯マニュアル

最後に、犯罪から身を守るために気をつけるべきことについても書かれています。性犯罪を防ぐために帰り道はどう行動すれば良いか、電車で痴漢に狙われやすい位置、ストーカーが陥りやすい心理とストーカーから逃れるポイント(やってはいけない別れ方。曖昧な言い方、メールで一方的に、など)、子供が被害に遭いやすいSNS関係の事件、などなど。

とくに、子供が成長して行動範囲が広がってくると、犯罪に巻き込まれるリスクも高くなるので、子供と一緒に話し合っておくことが大事だなと思いました。

まとめ

犯罪はなぜ起こるのか、犯罪者の心理など、怖くて気分が悪くなる話も一部ありましたが、興味深い内容でした。

あと、最後まで読めたのは、たきれいさんのかわいいイラストの力が大きかったと思います。最初見たとき、犯罪心理学の本にしてはかわいい絵だなあ、と思ってちょっと意外だったのですが、このイラストがなかったら、ちょっとキツかったかもしれません。絶妙のバランス。編集者さんもすごいなと思いました。

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